ORSCの体現者として生きるCRR Global Japanファカルティ島崎湖さん
風土改革や組織文化の醸成に面白さが
コーチとしての歩みを始めて、20年以上が経とうとしています。現在、私が手掛けている仕事は大きく分けて3つあります。1つ目は実践家としてのシステムコーチの育成、2つ目は1対1のライフコーチングやエグゼクティブコーチング、3つ目は企業やNPO、NGOといった組織に対するORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)です。
組織に関わる現場では、風土改革や組織文化の醸成、ミッション、ビジョン、バリューの策定といったテーマに伴走することが比較的多く、そこに面白さを感じています。組織が自走していく上で、風土やカルチャーの影響は非常に大きく、その土台を作り、より改善していくプロセスにおいて、ORSCが活きると考えています。
振り返ってみると、人や組織に関わる仕事をする上で大きかったのが、前職の人事での経験です。学生時代は人見知りだった私が、新卒採用の担当ではものすごい数の人に会って説明会で話をしたり、給与や社会保険に関する担当になってからは、社員の皆さんから様々な相談を受けることもありました。
そんな日々の中で、新卒採用で関わった若者数名がメンタル不調で会社を休むことが続いたんです。上司から「話し相手になって、徐々に職場に戻れるようなサポートをして欲しい」と言われて、まずは産業カウンセリングを学び始めました。
その時に同じクラスだった受講生から「産業カウンセリングも良いけれども、毎回メンタルの問題があるわけではないなら、島崎さんはコーチングの方が合う気がする」と勧められたんです。まずはパーソナルコーチングを学び、社内の新任マネジャーや営業マンにコーチングを実践していきました。入社してからの約10年間、この人事での経験は私のコーチとしての土台を築いた時間だったと思います。すごく鍛えられたし、育ててもらったなと思って感謝しています。

地球の裏側で困っている人にORSCを
会社員時代も含めて約10年にわたりパーソナルコーチングを通じて「個人」を応援し続けてきましたが、その中である葛藤が生まれました。人は必ずどこかの組織やコミュニティに所属していますが、その所属先の人々が一緒に変化していかなければ、どんなに一人で頑張っても変化を起こすのは難しいことがあると感じていたんです。
そんな時にORSCのことを知って、悩みに悩んだ末に海外へ学びに行くことにしました。当時はまだ日本での開催がなかったんです。現地では「英語が話せないと言っていたけれど、こんなに話せないのに来たんだね」とびっくりされましたが、まずは飛び込んでから考えるというのが私の特徴であり生き方なのだと思います。
しかし、言葉を扱うコーチングだからこそ言語の壁は大きく、ORSCの学びは平坦ではありませんでした。資格コース(現在の実践コース)の半ばでとても落ち込むことがあり、泣きながら「もう辞めよう」と追い詰められことがあったんです。その夜、死んだような目がをしている女性が夢の中に現れました。今思えば、アジアのどこかの国の人のような印象でした。
パッと目が覚めた時に、その夢に意味があるような気がして。「地球の裏側にはすごく困っている人がいる。この人たちへORSCを届けるために、行けるところまで行こう」と思いました。良い意味で意味づけができて、再び前を向いて歩き出すことができました。

私はどこまで行ってもコーチだ
実は今年の3月まで大学生をしていたんです。働きながら学んでいたこともあり、卒論を書いて卒業するまで5年かかりました。大変な日々でしたが、それ以上にやりがいを感じた日々でした。
そもそも大学で学び直そうと思ったきっかけは、趣味のスキンダイビングでした。大好きな海に潜るたびに、海水温上昇によるサンゴの白化を目の当たりし、「海の中が変わっていく」ことに胸を痛めていたんです。地球自体の変化もあるとはいえ、人間が環境に影響を与えていることも確実にあります。そう思い立ち、環境や社会について学べる「人間科学」という面白い分野を見つけ、思いきって大学へ入学することにしました。

学びを進める中で、地球温暖化や気候変動といったテーマは大きすぎて、どこから手をつければ良いかわからないと感じていました。多くの人が私と同じように感じているのではないでしょうか。そんな時、たまたま地域での取り組みについて学び、ディスカッションする機会があり、どこか1つの地域に入って研究することを決めました。
選んだ研究テーマは、「持続可能な地域づくり」です。地域ごとに地形も気候も異なるからこそ、その土地に根差した方法で住民自らその課題に取り組むことが最も無理なく回っていくことだと考えました。
フィールドワークの舞台に選んだのは、10年以上ダイビングで通い続けた沖縄県の石垣島です。石垣島は人口約5万人の大きな島なので、その中のどの地域を選ぼうか考えていた時にたまたまご縁をいただき、「白保集落」へ行くことになったんです。
そこでは海の保全活動や地産地消の取り組みが日々の暮らしに息づいていて、それを住民みんなで維持するための自治組織が存在しています。この地域のありたい姿が20年程前に描かれたという「白保村ゆらてぃく憲章」を目にした時に、共通の未来を持って実現しているその素晴らしさに感動し、魅了されました。

と同時に、このフィールドワークは、自分自身のあり方を問われる時間にもなったんです。プロのコーチとしてこれまで数えきれないほど「人の話」を聴いてきた自負があったのですが、初めて白保の人たちの中に入った時に、全く話が聴けていないことを自覚して呆然としたんです。地域の人とうまく関係が築けないことにショックを受けて、落ち込んで帰ってきました。
さらに、現地のお母さんから投げかけられた「あなたはどのレベルでこの地域のことを知りたいわけ?」という言葉にハッとしたんです。私はこれまで仕事を通じて組織の中にある対立や多様な声を扱ってきましたが、地域に入る時も同じように、多様な立場、多様な対立の声を聴く必要があるのだと気づいたんです。私が飛び込んだのは沖縄の集落。歴史的背景を想像すると、避けては通れない話が必ずある。なのに私は「その違いからくる感情的なものの中に飛び込む覚悟」を持っていなかったと痛感しました。
そこから「大学の卒業が一年遅れてもいい。最終的に卒論を書けなくてもいい」と考え、「まずは相手の文化、歴史に両足を入れてちゃんと受け取ろう」と思い直しました。考えていた調査方法を全部手放して、一人の人として相手の懐に飛び込んでみました。そうすることで地域の人々と徐々につながりを感じ、関係を作り始めることができたんです。
一般的な研究者は目的を持って調査をおこなうため、「分析に必要なデータ」さえ聞ければ、片足を入れるだけでも十分かもしれません。むしろそれが研究者なのかもしれないとも思います。しかし、私はただデータを集めたいわけではなく、相手を知りたいし、理解したいし、深く聴きたい。その生の声から分析をしたい。そんな気持ちになったんです。
ORSCには、相互理解を進める「ランズワーク」というツールがありますが、相手の国に入る、相手の文化に両足を入れるということは、まさにこういうことなんだと実感したんです。その経験を通じて、私は研究者ではなく、「どこまで行ってもコーチなんだ」というアイデンティティを再確認しました。

ワールドワークは「共に生きる」
私のワールドワーク*のテーマは「共に生きる」です。“共に”という言葉には、多様な文化、人種、ジェンダーを超えた共生はもちろんのこと、自然や動物、植物も共に生きていくという意味も込めています。ここは私が人生でずっと大切なものとして握っていることです。
* ORSCの知恵を使い、目の前に起きているさまざまな問題・課題に働きかけ、より良い関係性(Right Relationship)を共に作ろうとする取り組み
今、その想いのど真ん中にあるものとして提供しているのが、ORS@Natureというプログラムです。偶然なんですが、環境や社会について大学で学び始めた同時期に、ファカルティの佐藤扶由夫さん(ふゆふゆ)と一緒にORS@Natureコースを立ち上げました。
このプログラムでは、すべての存在はつながり、関係し合っていることを表している「関係性システムの輪」(図参照)を使いながら、自分と誰か、あるいは自分と何かとの関係性をじっくり振り返ります。例えば、自分とパートナー、自分と自然といった形です。何かをしようとした時に一人の力には限界があります。誰かと、あるいは何かとつながることで、私たちはよりパワフルになり、一人では行けない、想像以上に遠くに行くことができます。

そう考えると、関係性をどう扱っていけるかという力は、「リーダーシップ」には不可欠な要素だと思っています。入口は自分自身なんですが、自分が整っていないと相手を思いやれないし、社会へ意識を向けることもできません。
どういう自分であることが、結果的に「関係性システムの輪」に影響を与えられるのか。もっと言えば、自分はこの輪の一部であるという感覚をつかめるのか。ORS@Natureはリーダーシッププログラムだと言っても良いと思います。このプログラムは海辺や森などでおこなうため、場のインパクトも大きく受けます。ご縁とタイミングと自然が応援してくれる中で、“自分に還る”体験は格別なものです。ぜひ一度、味わいに来てください。
「地域の物語を聴く」これからのライフワーク
大学のフィールドワークを経て、私の関心は「地域」へ向いています。人口減少や環境保全など地域ごとに直面している課題がありますが、それらを解決するためには、そこに住む人たち同士の「関係性」や「コミュニティの力」が問われると思います。そうした時にORSCの知恵は非常に役立つし、必要だと強く思っています。
さらに、これからは地域や地域の人々と多様に関わる「関係人口」と呼ばれる人たちとの関係作りも必要になってきます。その際、どちらか一方だけが利益を得るのではなく、お互いに賛同できる「正しい関係性」(Right Relationship)を築けるかどうかが持続可能な未来への分岐点になります。
例えば、私がフィールドワークとして訪れた沖縄では、リゾート開発などのホテル建設を巡る摩擦が起きやすい現状があります。外から来た人たちの利益が優先され、「これは本当に正しい関係性なのか」と胸を痛めることも少なくありません。だからこそ関係性を作っていくプロセスにORSCの知恵を持ち込めると良いと思うんです。
私のワールドワークのテーマでもある「共に生きる」ことを体現していくために、これからは「地域の物語を聴いていきたい」「そこに暮らす人たちが自分たちの地域を守り、未来へつないでいくための背中をそっと押すことができないか」と思い始めています。
人は誰かに話をすることで、大切な何かに気づくことがありますよね。それによって地域が紡いできた歴史やアイデンティティ、価値観などが鮮やかに見えてくるのではないかと思うんです。これを今後のライフワークとして、コーチの新しい立ち位置としてお見せできたらと考えています。

【編集後記】石垣島の白保集落におけるフィールドワークで、「まずは相手の文化、歴史に両足を入れてちゃんと受け取ろう」と決意したいずみさん。私は研究者ではなく、「どこまで行ってもコーチなんだ」という力強い言葉に心揺さぶられました。ORSCの体現者として生き、コーチングの新たな可能性を切り拓く先駆者としてのいずみさんの未来がとても楽しみです。(ORSCCのライター:大八木智子)