【前編】まさに自分が求めている場だった

現場主導で実践を積み重ねるYKKの組織開発 / YKK株式会社
【前編】まさに自分が求めている場だった(今この記事を読んでいます)
【中編】ORSCerの自分と秘書としての自分のギャップ (近日公開)
【後編】目指すは「森林」の体現(近日公開)
組織開発のアプローチには、専門部署を立ち上げて全社的にシステマティックに進める企業もあれば、現場主導で実践を積み重ね、現場発で変革を進める企業もあります。今回ご紹介するのは、後者のスタイル――現場で働く社員自身が組織内コーチとしてリーダーシップを発揮し、変化と変容を生み出している事例です。
YKK株式会社の今井悠乃さんと枝光正江さんは、ORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)の手法を取り入れながら、組織の内側から変革を推進しています。現場から生まれる変化の力と、そのプロセスに迫りました。
社長に直談判してコーチングをスタート
――まずは、お二人のお仕事について教えていただけますか?
枝光さん:YKK株式会社で役員秘書をしています。現在は会長の秘書です。経営企画室に所属しているので、毎月おこなわれる経営戦略会議の事務局や、部内の庶務仕事も引き受けています。それに加え、1年ほど前から組織内コーチとしても活動しています。

今井さん:私も経営企画室に所属しています。弊社は東京と富山県に拠点がありますが、東京側の相談役秘書と、経営企画室室長のアシスタントをしています。仕事の8割はコーチングで、①パーソナルコーチング、②システムコーチング、③自己変革支援プログラムを実施しています。
パーソナルコーチングは、今は大々的な募集はしていませんが、過去に受けた方からの口コミや各部署の上長からの依頼で行っています。最近はアンガーマネジメントに関する関心が高いため、アンガーマネジメント講座を行うことも多いです。
自己変革支援プログラムというのは、執行役員や専門役員を対象に、その上長である社長や取締役、私の三者で、パーソナリティテストや他者評価を基に面談を行うものです。YKKの役員40名、YKK APという関連会社の役員60名と「もうワンステップ上がるためには、どんなことをしていくか」という内容の面談をして、振り返りをしています。

――御社では人材育成に力を入れていらっしゃるようですが、組織開発はどのようにされているのですか?
今井さん:YKKでは人事がおこなっているエンゲージメントサーベイなどがあります。経営企画では、ORSCも組織開発の一環として行っています。ただ、私がORSCの前にまず学んだのは、個人向けのコーチングでした。
2012年にCTI*で学び始めて、自分自身が大きく変われた体験をしました。これは効果的なアプローチだと思い、「コーチングを社内でやりたい」と希望したものの、当時は商品企画に所属しており、その後秘書になったので、人事に協力をあおぎ細々と業務時間外に実践するのみで、10年近く経ってもなかなか大きく広げることはできませんでした。
- より詳しくお知りになりたい方は、CTI ジャパンのホームページをご覧ください。
2020年のコロナ禍に「今だ」と思ったタイミングがあり、当時の社長(現会長)にアポイントを取り、「コーチングを仕事としてやりたいです」と直談判をしに行ったんです。ちょうど社長が思っていた組織に関する課題感と合う面があり、「やってみたら良いよ」と言われました。
そこから管理本部長へと話が行き、人事に話が降りて、その数か月後の2021年4月には、社内の海外主席工場長と国内の部門長以上200名宛に人事部と経営企画室の連名でパーソナルコーチングの募集案内を出しました。それに対して20名の応募があったんです。
意図的に協働関係を作っていくことが近道
今井さん:そこから1年間で20名の管理職に1対1のコーチングを行いました。最初はリーダーシップなどの個人的なテーマが多かったのですが、組織の中が揉めているとか、もっと組織を活性化したいのにできないという声が聞かれるようになり、「1対1だけでは足りない」という感覚になっていったんです。ご本人がどんなに頑張っても、現場に戻ったら負のオーラに巻き込まれてしまうという中で、何か違う手法はないだろうかと思っていました。
最初は自力でプログラムを組んでみたのですが、単発で終わってしまい、継続して続けるプログラムはなかなか作れませんでした。そんな時に、コーチ仲間からシステムコーチングというものがあると聞いたことを思い出し、学びに行ってみることにしました。2022年のことです。
行ってみて思ったのは、まさに自分が求めている場だったということです。誰からも否定されず、何を言っても大丈夫な場で。会社というのはどうしても評価・判断されることが多いため、こういう安心安全の場を作った上で協働する土壌を会社でも作れたらすごく良いなと思いました。

これまで弊社は、関係性というものは「懇親会をすれば大丈夫」とか、「出社して雑談すれば良いよ」というように、偶然とか曖昧性に頼ってきた部分があると感じています。しかし、学びに行って感じたのは、意図的に協働関係を作っていくことが近道だということです。特にコロナの時期だったので、こうした場が必要だと思いました。
この先のキャリアを考えて飛び込んだ
――今井さんはパーソナルコーチングとは違う手法を探していたとのことですが、枝光さんがORSCを学んだきっかけは何だったのですか?
枝光さん:実は、今井さんにスカウトされたんです。先程、今井さんが社長に直談判をしに行った話が出ましたが、私も今井さんのコーチングスキル向上のサポーターとして、今井さんからパーソナルコーチングを受けていました。その時に、「枝光さん、コーチに向いていると思うんだよね。ORSCという関係性に焦点を当てたコーチングがあるんだけど、一緒にやってみない?」と声をかけられました。
もちろん秘書業務をずっとやっていくという道もありますが、自分のこの先のキャリアを考えた時に、職場の中で自分ができそうな仕事はほかにないか? 自分にできることはなにか? を探して、少しずつ動き出したいなと思っていたタイミングでした。
さらに、部を異動せずに新しいことができるのは良いチャンスだなと思ったんです。ORSCのホームページを見た時にどういうものか全然わからなかったのですが、「やってみます、やりたいです!」と言って飛び込みました。2023年5月のことでした。
【中編】では、ORSCを学んで気づいたこと、枝光さん、今井さんが感じた秘書だからこその葛藤について聞いていきます。