自然とのRight Relationship(正しい関係性)コロナ禍で、私たちは何を学ぶのか
ORSC labo第6回はコロナ禍の現代から、人と社会の関係性、さらにその奥にある人と自然の関係性について、システムコーチングの視点から語っていきます
コロナ禍 での自然の変化
2020年の春、世界中で新型コロナウィルスの感染拡大が報告され、同時多発的に世界中の都市がロックダウンを余儀なくされました。街からは人影がなくなり、いつも観光客で賑わう街ですらゴーストタウンのように静まり返っていました。そんな中、こんなニュースが流れていたことをご存知でしょうか。
「インド北部のパンジャブ州で、200キロ近く離れたヒマラヤ山脈が数十年ぶりに見晴らせるようになり、市民を感嘆させている。同国では新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)で全土の大気汚染が大幅に改善していた。」(2020.04.10「CNN」オンラインニュースより)
「新型コロナウイルス対策のため世界中で人が活動を停止する中で、野生生物の活動が活発化している。タイや米国などではウミガメの繁殖が増えている様子が報告された。」(2020.04.21「CNN」オンラインニュースより)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は25日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が自然環境や経済活動に与えた影響について、人工衛星の観測データを使った分析結果を公表した。米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)と協力し、中国や欧州で温暖化ガス排出量が減った傾向などが確認できた。(2020.06.25「日本経済新聞社」オンラインニュースより)
人の活動が止められたことで結果的に、途上国でまだまだ多い大気汚染の問題が一旦ストップし、ウミガメに見られるような野生動物の活動の活発化、そして昨今、気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でメインテーマとなってとなっている「温室効果ガス排出の削減」までもが一気に進んだのです。
これまで「人」と「自然」の関係性は、頭でぼんやりとは理解しつつ、真正面から受け止めるには大きすぎるテーマであり、そのことに圧倒されて自分では何もできないと感じる人も多かったのではないでしょうか。しかし、世界中で同時に行動が制限され、一人ひとりが日々の生活を少しずつ変えたことことで全体として変化が起こる、変化が起こせるのだということを私たちは今回の経験を通して知ることになります。この経験から私たちは何を学ぶ必要があるのでしょうか。
システムコーチング®では、関係性システム™を「共通の目的/共通のアイデンティティを持ち、相互依存する一連の要素や人から構成されるもの」と捉えて関係性そのものに関わっています。
まさに今、私たち人間社会には「コロナと共にどのような新しい日常を創っていくのか」といったような世界共通の目的があり、各国の取り組みが結果に大きく影響している(相互依存の関係がある)。世界がシステムとして動いていることを実感される方も多いのではないでしょうか。同時に、人の営みに変化が起きたことで、自然そのものにも目に見える形で影響を与えていることに思いを馳せると、人と自然は、持続可能な地球であることを目的としたシステムだということが改めて見えてきます。
世界の一員である「私」
そこで今回は「人と自然とのRight Relationship(正しい関係性)」について、システムコーチング®の2つの知恵「関係性システムの輪」と「第3の存在」というワークを用いて深めていきます。壮大なテーマで圧倒されてしまわないよう、私たち自身とどう繋がっているのかを探っていきます。
まず「関係性システムの輪」に照らし合わせて考えてみましょう。この輪はそもそも入れ子の状態を表していて、私たち人間は一人で生きているのではない、必ずどこかに所属し、その中で生かし生かされていること=関係性の中に存在していることを表しています。入れ子の関係性のスタートは「自分」です。そして一番身近な所属先は「家族」、そして「組織、チーム」「地域コミュニティ」「日本・世界」「自然・地球」。だんだんとその所属先の輪が大きくなっていきます。大きくなればなる程、おそらく自分がそこに所属をしている実感が湧きにくいのも事実でしょう。
しかし、この春に自分だけでなく世界中の人々が経験したことをもう一度思い出してみてください。世界同時に街が封鎖され外に出られなくなったことを、会いたい人に会うことも我慢した日々を。この時、自分の命の危険も顧みず目の前の患者さんに向き合っていた医療従事者の方々がいたことを。そんな医療従事者に感謝の意を示そうと決まった時間に一斉に拍手を送った人たちがいることを。今の私たちであれば、共に同じ痛みを分かち合い、共にこの危機を乗り越えようとしている「世界の一員であること」。すなわちこの世界システムという大きな輪に自分が所属していることを感じることができるはずです。
そしてこの感覚は、システムコーチング®の基本となる考え方「RSI®(関係性システムの知性®)」を表しています。「私」だけでもなく、「あなた」だけでもなく、双方を含む全体性としての「私たち」としてシステムを見る力であり、自分自身を関係性システムの一部と見る力です。これこそが世界をどう見るかというシステムコーチング®の世界観とも言えます。
「人」と「自然」を「私たち」と捉えて
世界システムは今、コロナでの経験を通して「不安」や「恐れ」を抱えながらも、なんとかコロナに適合しようと働き方や生活スタイルを変えるべく動き出そうとしています。世界システムが進化しようとしている今だからこそ、さらにその先にある「自然」との関係性にも思いを馳せてみます。
中には「人間社会」からいきなり「自然」と言われても全く別のものに感じて想像ができないという人もいるかもしれません。しかし、人と自然とが別々に扱われている、そこに分断があることこそが思い込みであり、そもそも人間社会は自然と共に、地球の生態系の中に存在していることを思い出す必要があります。
そこで「人と自然との関係性」について、先ほどのRSI®の世界観を体験できる「第三の存在®」のワークでさらに探ってみましょう。
システムコーチング®では、関係性そのものに多くの智慧や情報が存在すると考えます。そこにいるメンバー個々人(「私」「あなた」)が存在するように関係性自体(「私たち」)が存在し、その関係性(「私たち」)は独自の欲求と声を持つ個別の「第三の存在」と考えます。
このワークでは、あなたが今気になっている、かつ大事に思っている自然の対象を1つ思い浮かべます。ある人は今まさに部屋にいる飼い猫を。ある人は庭に植えている野菜たちといった、身近な自然を思い浮かべているかもしれません。ある人はモーリシャスの重油流出事故で脅かされている生態系を。ある人はカルフォルニア州の火災といったように、遠く離れた自然に思いを馳せているかもしれません。
その自然に対して、あなたが感じていることは何ですか。もし何かを伝えたいと思っていることがあるとしたら、それは何でしょう。それこそが「私」であり「私の声」です。
次に、その自然に思いを馳せ、あなたの想像力を思い切り働かせてそのものになりきります。その時に感じる気持ちや感覚こそが「自然」であり「自然の声」です。
さらに、私も自然も含んだ全体性としての「私たち」すなわち「第三の存在」に思いを馳せ、再度あなたの想像力を思い切り働かせます。「私」と「自然」の関係性そのものが独自の存在としてここに現れます。
そこでこんな問いを投げてみてください。
- 「私たち」とはどんな感覚なのでしょう?
- 「私」も「自然」も知らないことで「私たち(第三の存在)が知っていることは何でしょう?
- 「私たち(第三の存在)」は、「私」「自然」から何を必要としていますか?
ここで聞こえてくる声こそが「私たち(第三の存在)」すなわち「関係性システムの声」となります。今この瞬間、私と自然との間には「私たち」としてどんな声があるのでしょうか。もし安心感や温かさを感じたならば、まさに「自然とのRight Relationship」がそこに存在しているのかもしれません。もし、ざらっとした感覚や違和感を感じたならば、あなたが考えるより良い関係性に向けて、何かを変える必要があるのかもしれません。
今私たちは、大事な家族や友人、仕事の仲間と同じように、自然も地球システムを構成している大事な仲間として自覚をし、関係性システムの輪の中に迎え入れる「とき」が来ています。「自然とのRight Relationship」はまさにここから始まるのではないでしょうか。そして、自分自身の「自然とのRight Relationship」の解が得られた時に、同時に自分自身とのRight Relationshipもさらに整っていることでしょう。なぜなら、私たち人間も元をたどれば動物や植物と肩を並べる生物種の1つであり自然の一部、自分という自然を生きているのですから。