働き方の多様性に寄り添う
コロナ禍を経て、ますます加速していると感じることの一つに、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)があります。SNSを活用し、個人が自由に社会的な繋がりを創り出せるサービスは、様々なコミュニティへの交流にも拍車をかけているのではないでしょうか。
今まで以上に自ら情報を収集する機会も増え、また自ら情報発信をすることが出来るようになった昨今、私たちは、場所や時間、そして所属するコミュニティを自由に選択できるようになり、働き方を見直す動きも顕著になってきました。ただし、それに付随して社会そして組織に何が起きているのか、また個人と組織の関係性の苦悩と可能性にフォーカスをあてながら、チーム・組織という枠組みを超えた「関係性システム」について考えてみようと思います。
目次
「働き方改革」という名の実態
様々な組織に関わらせて頂いていますが、ここ数年、そして昨年は更に加速して、組織で働くということについての個々人の考えが顕著に表に出るようになってきました。以前であれば、水面下で思っていただけで言葉にしていないとか、考えていても閉ざされた環境だけでの共有であった本音が、所属組織メンバーが集うワークショップや研修といった公の場でも、声に出す方々が増えてきていると感じています。
- 顧客が求めているサービスのクオリティを追い求めることと、残業時間などの労働環境に挟まれている。働き方改革のひずみだ。ある程度、根詰めて時間をかけないといいものなんて創れない
- 何かあるとワークライフバランスって言われてしまって、最終的には管理職である自分が調整せざるを得ない
- リモートで仕事を進めているけれど、実態が見えない。そこに付け加えて残業が増えている。何か他のことをやっているのか、不思議でならない
- 皆が色々やり出したら、誰もやりたくない仕事は誰がやるのか?結局誰かがやらないといけないだろう
- 世の中は、兼業・副業OKの会社とか出てきているけれど、自社はそれが許可されない。いつまで経っても遅れている
- 兼業・副業OKの制度はあるけれど、許可を得るまでの道のりは程遠い
- 自分で情報を収集して組織に提言してきました。上司先輩が動かないので、その分の仕事も自分がやっています。もう彼らから学ぶことはありません
- ある程度経験を積んだら、転職するつもりです。もともとその前提で入社しています
- 働き方の多様性を突き詰めたら、会社はいらないのではないか。何のために会社に所属しているのか (※1)
こういった発言は一部の方々から出てきたものではありますが、私たちは、たとえそれが、チーム・組織(関係性)にとって恐れを感じるような意見であったり、共感を得られないような声だとしても、ディープ・デモクラシー(深層民主主義:場にあるあらゆる声に耳を澄ませる(※2))を大切にし、逃さずに聴き取るという姿勢で向き合います。
チーム・組織(関係性)の真実の姿が正確に表されるためには、すべての声が聞き届けられる必要があるとORSCでは考えます。あらゆる視点には、必ず何かしらの真実があるのです。
多様性(ダイバーシティ)を活かしたマネジメント
このように現場では様々な声があがります。昨今よく聞かれるチーム・組織が見据える働き方の多様性とは何なのでしょうか。社会情勢も踏まえながら、多様な働き方を追い求めるその背景には、一体何があるのでしょうか。
多様性(ダイバーシティ)とは、もともとアメリカで起きた社会的マイノリティや女性への差別を取り払い、就業機会の拡大を目指す動きの中で使われ始めた言葉ですが、近年、ビジネスの現場では、あらゆる違い(性別、人種、宗教、民族、国籍、学歴、年齢、価値観 等などの違い)のある人たちに、積極的に職場を提供することで、企業としての社会貢献を果たしながら社会的地位も向上させる効果を持つという経営戦略の意味で使われています。
人材不足と言われる中で、優秀な人材の確保やキャリアパスの充実、多様な価値観・意識を持った人材による新しい価値創出、そして企業イメージの向上などが多様性(ダイバーシティ)を活かしたマネジメントを導入するメリットだとも言われます。
多様性(ダイバーシティ)が重要だと頭ではわかっていても「多様な人たち×多様な働き方」という、多様性がどこまでも果てしなく続く道のりを考えると、面倒くさい、画一的でいいではないか!という短絡的な意思決定に陥ってしまいかねないチーム・組織も実態としてはあるようです。
それでも尚、私たちが追い求めるこの多様性(ダイバーシティ)についてどのような可能性があるのかを見ていきたいと思います。
無限の組み合わせによる無限の多様性
(IDIC:Infinite Diversity in Infinite Combination)
私たちコーチが、チーム・組織に関わる際には、関係性に内在する様々な機能的な構造そのものに幅広く働きかけます。
私たちが築き上げるあらゆるものは、自分たちが育ってきた文化や、これまでの人生経験に強く影響を受けています。そして自ずとそれが属している文化に順応していきます。多くのチーム・組織は、独特の好みや信念によって構成される一つの複雑な国のようなものです。これまで影響を受けた人々や教育、文化、宗教、その他の様々な要素によって創られているのです。
そこには、無限の組み合わせによる無限の多様性(IDIC)があり、それぞれの違いに対しても好奇心をもって働きかけます。
国という比喩で例えると、私たち一人ひとりは、自分自身の内なる国の住民であることにあまりにも慣れすぎて、つい、他の人の内なる国をじっくりと探索しないままに過ごしてしまっています。それぞれ自分だけの現実の世界に生き、その世界が人によって全く違うことをあまり自覚していません。つい、他の人も自分と同じように世の中を見ていて、同じような経験をしていると思い込んでしまうのです。
社会変化に伴い、お互いが何を大切にし、何を考え、どんな想いでいるのか、それをやっと声に出す機会が増えてきているのだとも思います。そういう声が出始めているのであれば、そこからどのようにその声を扱うかによって、チーム・組織の未来は大きく変わります。
ICF(国際コーチング連盟)のチームコーチング・コンピテンシーにもありますが、チームコーチとしてチーム・組織メンバーが自由に発言できる安全で支援的な環境を作り、それぞれの意見の相違を尊重することを大前提に向き合います。
チーム・組織(関係性システム)にある違いを認め、それを祝福し、違いが大きければ大きいほど、新しい視点を得る可能性は大きくなります。そして、誤解と衝突も同様に大きくなります。
私たちコーチは、クライアントがお互いに相手の内なる世界を知り、自分たちの世界地図を描けるように関ります。違いを恐れとして捉えるのではなく、「違いに好奇心」を持ちさえすれば、お互いの違いは脅威ではなく喜びの源になると信じています。
それぞれがお互いのこと(国)を知りあい、メンバーで共通の目的を達成するための第三の国「私たちの国」を創ることでチーム・組織の視座があがり、自分とは別の視点から話すようになっていくのです。この協働関係を構築するために、コーチはじっくりと対話を促すことをし続けます。
私自身の働き方の多様性
私自身の話をすると、2017年から自分自身の働き方、組織との関わり方を変えた一人でもあります。現在、ある組織と直接雇用契約をし、活動しています。それまであった人事制度を変更し、成果連動の働き方のコースを制定し、就業形態も月1回の出社という形を作りました。その制度で業務をする“初めての人”として契約締結をしています。
その当時、自分自身が管理部門の責任者をしていました。経験値のあるメンバーのキャリアを考えた時に、そのまま組織の管理職・経営者としての道として残る以外のキャリア形成を創ることは出来ないのかを考えていました。そこで、私がやってみよう!という決断をし、実践しながら、制度を形作るという何ともグレーなところからのスタートでした。未来を考えた時に、一つの選択肢としてキャリア形成の開拓をしたかったという背景もあります。
ここに至るまでに、そして今も、ずっと対話をし続けています。状況に応じて、契約の中身が変わります。組織が個人を選ぶ時代から、個人が組織を選ぶ時代に転換していく今だからこそ、この意思決定をして下さった当時の社長、そして組織が変わりましたが、現社長にもとても感謝をしています。そして、一緒に働いているメンバーの存在が何ともありがたいです。
またそれと同時に、CRR Global Japan合同会社のメンバーとしても活動しています。当時は、私の就業形態をとっているメンバーは誰一人としていなかったので、また“初めての人”として契約締結をしていました。これまた合同経営なわけですから、社長というポジションは存在しません。すべてを話し合いながら、都度全員で意思決定をし続けていくこの組織形態において、私のような働き方を受け入れてくれるメンバーにも感謝しています。
上記2つのチーム・組織において、私は雇用形態としてはマイノリティ(1人)であります。様々なことは大多数の意見をベースに事柄が進んでいくことは日常とも言えますが、幸いなことに、私はシステムコーチングを学び、ディープ・デモクラシーの大切さ、多様性の可能性の大きさや喜び、個人と組織の関係性の変化から創造する新たなるものは、“想定を超えた世界”であると信じ、体験しています。そして同時に、この私のような役割には大きな役割があるとも思います。また話を聴いてくれる仲間が周囲にいる、そういう仲間をつくることも大切だと感じています。
結局のところ、自分自身がどのように生きるか、働くかは個人の選択であり、責任であると思います。あらゆる多様性に寄り添うこととは、自分自身を、そして同時に、そこにいる相手のディープ・デモクラシーをも大切にしながら、それぞれが意見を発信し、対話をし続けていくことではないかと思います。
“人を活かす” “繋がりあう” “循環する”といった、これからを見据えた生き方・働き方を体現する人が一人でも増えることが、人と人が集う「関係性システム」に必要不可欠な要素なのではないかと私は考えています。
※1)本記事に登場する人物の声は、筆者が経験した様々なケースを守秘義務に留意しながら複合して創作したものであり、特定の人物、チーム・組織のものではありません
※2)ディープ・デモクラシー(深層民主主義)は、アーノルド・ミンデル博士が提唱された概念です
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