VUCAの時代に潜むゴーストたち

先行きが見えないVUCAの時代

2010年頃からビジネス界でも使われるようになった言葉、VUCA。VUCA(ブーカ)とは、先行きが不透明で将来の予測が困難な状況を表す造語のことを表します。(「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:曖昧性」の頭文字)

以前はそれにピンとくる人もいれば、とはいえまだどこか他人事で受け取る人もいたのではないでしょうか。

追い討ちをかけるようにコロナによって世の中は一変しました。まさに先行きが見えない時代とはこういうことをいうと皆が現実味を帯びたと言えるでしょう。

もっと長いスパンで振り返ると、この2、30年の経済の動きという面でも大きく変わっています。情報化社会、それはインターネットの普及によって誰もが情報を取得、発信できる時代へと移り変わりました。私たちのライフスタイルだけでなく、ビジネスにおいてもこの影響は大きく、あらゆる個人や小規模の法人の新たな商品やサービスへの参入障壁が下がり、次々と新しいものが生み出されやくなったことは言うまでもありません

企業としては、既存事業を維持するだけでは生き残るのが難しくなっているのが現状です。グローバル化の波、技術革新の加速、そして多様化していく世の中の価値観を背景に、多くの企業はこれまでのやり方だけでは限界も感じられ、イノベーション、新規事業立ち上げを強いられています。ティール組織、アジャイル、スクラム、DX・・・・本屋に行けば今何が流行っているのか一眼でわかるぐらい組織のあり方のキーワードが次から次へ変わっていっているように感じます。

次々と立ち上がる「新規事業部門」

私自身、ここ数年で関わるクライアントの中でも「新規事業を創出する」というミッションを抱えている組織が増えています。
組織としての体制はできたものの早くもチャレンジングな状況に直面している組織として以下のような声を聞きます。

・未経験の仕事を求められる戸惑い:

これまで既存のビジネスを計画通りあるいは1-10で進めることで評価されていた社員は失敗はNG。どれだけ慎重に確実に仕事を進めるかを求められていた環境から、今後は0-1の部分、つまりビジネスを立ち上げることがミッションになり、失敗を恐れて、慎重に進めていたこれまでの強みが弱みとなることへの戸惑いを感じている社員も少なくありません。

・既存事業との比較から評価してしまうマインド:

新規で何かを始める時にはまずは「試しに」という点で規模は小さいものです。それがたとえ成功したとしても、これまでの既存事業の大きな成功と比べると全く歯が立ちません。その比較対象を持ち続けることでなかなか社内で評価もされにくくなっています。

・既存事業vs新規事業の構図:

今まで会社の存続を支えてきて、今もなお大きな収益を作っている既存事業部隊には無自覚だとしても会社の中でもランクが存在していました。しかし、新規事業に会社が熱を注ぐことで、その権威というのはある意味奪われた、変わったという形になります。その新たな流れに頭は理解していても、複雑な思いが両者には存在しています。

新規事業の立ち上げやイノベーションのための新たな組織の設置や新たな評価制度というのはまさにケン・ウィルバーのインテグラル論でいう、組織の外面に属することだと思います。組織体制の変更、新しい部門の立ち上げ、評価制度の変更、新たなミッションというのは目に見えやすく、その会社全体の方向性を示すものでもあります。

しかし、実際には例え箱が整ったとしても、このようにその箱の中で動く人たち、組織の内面で課題が多く起きています。

組織の内面で起きている課題

その内面に大きく影響しているのがゴースト(*)の存在です。

ゴーストとはそこには物理的に存在していないけれど影響を与えている存在のことです。

ゴーストに良い悪いはありませんし、実在する(した)人であることもあれば、過去の出来事や価値観といった目に見えにくいものも含みます。

システムによってゴーストは異なりますが、例えば会社組織で言うと、
カリスマ経営者や創業者がいる会社はたとえその方が引退したとしてもゴーストとして影響を与えるでしょう。「◯◯さんだったらこう言うだろうね」、「xxさんがいた時代からこうだった。」「これはうちの会社らしくないね」と言う形で会話に現れたりするかもしれません。

過去の出来事が今もなお影響を与えていることもあります。例えば、過去におきたリストラや不正が緊張感や危機感といった形で今もなお現場にインパクトを与えているかもしれません。

企業を取り巻くゴーストは、組織内だけではなく組織の外側からも影響を受けます。国の文化や世間からの目という場合もあります。日本においては「出る杭は打たれる文化」「根回し文化」であったり、業界によっては「男性中心という文化」が持ち込まれていることもあるでしょう。

また、今世の中を騒がせている「コロナ」はまさに今多くの組織に影響を与える存在でしょう。

特にそのシステムに長く定着しているゴーストほど当たり前すぎて自覚しにくいものです。だからこそ、組織に関わるシステムコーチはシステムに何が起きているかを見立てる際にゴーストとして何が存在しているのかも視野に入れていきます。

経営チームに潜むゴースト

一つ事例を紹介しましょう。
あるインフラの企業の経営チームに以前声をかけていただきました。

事業部トップの方々が抱えているミッションは新規事業領域の開拓と成功ですが、チームとしての課題はどうも一枚岩になれていないというところでした。

彼らの後ろには何千人という社員がいるという圧倒的なリーダーシップを持っている方々なので、正直そのままでも短期的に見ればある程度は形としては整えることができてしまう実力者の方々です。それでも、ここで足並みを揃えておかないと後で手遅れになるかもしれないという彼らとHRBPが感じている「違和感」からこの場を持つ機会になりました。

そして新規事業領域の開拓に向けてフォースフィールド分析を行いました。
このツールは変化を「推進する力」「阻害する力」明らかにし、優先順位をつけていくものです。

推進する力はぽんぽんと羅列される中、それでも推進することを難しくさせている「阻害する力」に挙げられたものは何か。

それはゴーストたちです。

例えば、
・これまで既存事業で手に入れてきた成功体験
・これまでのゲームのやり方で活躍していた人たち
・メンバーが持っている言われた通りやれば良かった時代の価値観

前向きで会社の変容を最前列で進めていくことに誰よりもコミットしてきた彼らが今まで周辺化していたゴーストを明らかにした瞬間でした。

「やっぱりあるよね」という認めざる終えないことに深いため息が場に起き、場は重くなり、沈むような瞬間でした。

新しいことを推進するときは多かれ少なかれ必ず逆風が吹くものです。ゴーストは時に逆風という形で現れ、個人を越えて強大な力で組織全体に影響を与えてきます。それに気づいたからといって、すぐに消せるほど簡単なことではありません。そして、これは1人では戦いきれません。

だからこそ、同盟者(アーライ)となる人や仕組みが必要になってきますし、改めてこの経営チームがもうひと段階レベルアップした状態で一枚岩になる意義が見つかった場面でした。

まずは自覚的になるところから

ではゴーストが現れた時どうするのでしょう。

慌てる必要はありません。逃げる必要もありません。

まず最初の一歩はゴーストというもの自体について教育するところから始めます。
なんとなくある停滞感、重たい空気というのはゴーストが影響しているケースが多いですが、内側の人間だけではその状態自体にも気づきにくいものです。

システムを一つの有機体として見るシステムコーチだからこそ気づくことができますシステムにゴーストについて教育することで、自分たちの姿をより自ら明らかにしていくきっかけになるでしょう。

ゴーストが起こしている不都合なインパクトをすぐに解決できるほど簡単なものではありません。どのように対処するかもありますが、それよりも今日お伝えしたいのはこのゴーストも含めてシステムコーチは見立てていくと言う点です。

リーダーに求められること

このとてつもなく大きなゴーストをないことにせず、この新たな組織風土ではどんな関係性をゴーストと築いていきたいのか。

トップに立つ者としてこのゴーストに対する自分たちのメッセージは何なのか。

ゴーストにまみれるのか、自分たちがゴーストの存在を認識しながら、それでも前に進めていくのか。

リーダーとしてこのうねりをどう作るのかは先行きの見えない時代だからこそ肝になるのではないでしょうか

さて、あなたの組織に潜むゴーストは何ですか?

そしてどんな関係性をそのゴーストと築きたいですか?

(*「ゴースト」はアーノルド・ミンデル博士が提唱されたコンセプトです。)


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