システムコーチングの力で社内を変革していく

the introduction slide of this article

(オンラインイベント)組織内チームコーチの実践事例
〜今なぜ「組織内チームコーチ」が必要なのか?〜
【前編】 システムコーチングの力で社内を変革していく(今この記事を読んでいます)
【後編】 こうしてシステムコーチングは社内に広まっていった
【Q&Aセッション】

組織を抜本的に変えていくニーズに多くの企業が直面する中、自社を内側から変革していく「組織内チームコーチ」が注目されています。

「組織内チームコーチ」は、チームが組織全体のために機能していくよう、システムコーチングの技術を使い支援する社内コーチです。

たとえば、チーム内で人間関係の対立が起きた時などには、中立的な立場で仲裁や解決のサポートをしたり、チーム全体で起きている問題を発見し指摘するなどの役割を担います。そのようなコーチを社内で育て、実践していくことで、より組織に根差した大きな変革を恒常的に行うことが期待できます(トレーニングは専門の機関=CRR global Japanで行なわれます)。

5月14日に行なわれたイベントでは、実際にシステムコーチングの資格(ORSCC)を持ち組織内チームコーチとして活動している、MSD株式会社の戸村玲子さんとSansan株式会社の三橋新さんにお話を伺いました。社内でチームコーチとして活動することのリアル(苦労したこと、実際どうなのか・・)を【前編】【後編】【Q&A】に分けてお伝えします。

イベント「〜今、なぜ『組織内チームコーチ』が必要なのか?」左上から時計回りに、CRR Global Japan 島崎湖、Sansan株式会社 三橋新さん、CRR Global Japan 原田直和、MSD株式会社 戸村玲子さん

「何者かになりたい」と思う中でコーチングと出会う

――自己紹介をお願いします。

三橋さん

三橋新と申します。Sansanというクラウド名刺管理サービスを提供している会社で働いています。人事のエンプロイーサクセスグループの中で、社内コーチとして、個人コーチングとチームコーチングを行なっています。

コーチングには2013年、33歳の時に出会いました。自分自身が「何者かになりたい」と思っている中で、ある役員から「お前の強みは雰囲気だ」と言われたんです。雰囲気を良くするとか、軽くする、和やかにするみたいなことを言ってもらって。それがもし強みだとしたら、どういう職種として使えるかなと思い、図書館へ。その時にコーチングの本と出会いました。

そこからCTIジャパンで個人コーチングを学び、社内でコーチングを草の根で広げていきました。また3-4年経ってから、システムコーチングの資格を持っている社外の人と2人でタッグを組んで、システムコーチングも一緒に進めてきました。

個人コーチングでいえば、現在社員が1000名弱いますが、その中で300人弱ぐらいは個人コーチングを経験したことがあるというところまできました。チームコーチングは、だいたい半期で20チーム。週に2-3人ぐらい個人コーチングをしながら、2-3回チームのワークショップをするのが基本的な業務です。

社内の人間関係で苦労したことがきっかけ

戸村さん

戸村玲子と申します。MSDというアメリカの製薬会社の日本法人で人材育成の仕事をしています。なぜシステムコーチングに興味を持ったかですが、以前所属した会社のある事業部門で、人間関係で大変苦労したことがきっかけでした

それまでは良い関係性を築いてきたはずが、急にみんなが自分を避けたりと、見えない壁を感じるようになったのです。実は裏で自分の言動が誤解を与え、すべて悪く取られてしまっていたことが分かって傷つきました。同時に弁明の機会が与えられないことに少し怒りも感じました。

こういった信頼関係がない状況では仕事が続けられないということで、その部門からは離れざるを得ない経験をしました。

その後MSDへ転職し、傷を抱えたまま仕事を続け、「何か自分に足りなかったことがあるのかな」と思っていた時に出会ったのがシステムコーチングです。

システムコーチングに出会って気づいた2つのこと

Ms. Komura
戸村さん

システムコーチングを学んでみて、2つピンときたことがありました。

まず1つが、CRR Global Japanのプログラムにおける基本ルール「誰もが正しい。ただし、全体からすると一部だけ正しい」という考え方です。

当時は「向こうの言っていることがおかしい」と思っていましたが、この言葉を見た時に、「彼らの視点から見たら、私のやったことはそのように見えたのだ。彼らにとっては真実だったのだな」と思いました。私の言い分も私の視点からは正しいけれども、視点を広げると「全体のごく一部なのだ」という点で腑に落ちました。

もう1つなるほどと思ったのは、「3つの現実レベル」(**)の話です。

組織の中で私たちは、一番上の「合意的現実レベル」という<事実>に対して変革を進めてきました。

しかし実は、その下に<言葉で表現できる感情>などを指す「ドリーミングレベル」や、<言葉にならない違和感>といった「エッセンスレベル」というものがあったはずでした。

私はその当時、組織として目指すゴール・プロジェクトに躍起になるあまりに、彼らの気持ちを全く聞いていなかったと思います。でも実は私自身、「このプロジェクトを成功させないと、担当部門は大変な状況に陥る」という懸念から、一生懸命この「合意的現実レベル」を推し進めていました。

その結果、どんどん関係に溝ができていってしまいました。この経験を通じて、「聞かれるべき声が聞かれない」とか、「組織の中に知恵があるのに、それが活かされない」のはもったいないということに気づいて、システムコーチングの資格を取るまでに至りました。

現在は、去年の1月から始まったアジャイル変革の推進を担当しています。この変革の成功の鍵は、組織構造や役割を変えるところだけでなく、フラットな組織になったことによる皆さんの行動や価値観、マインドセットの変革にもあります。この取り組みが始まった時に、まさにシステムコーチングが活かせると感じて、いろいろな組織に対してシステムコーチングを行いました。先程ご紹介があった三橋さんと違って、私は人材育成という業務の中の一部として、システムコーチングを必要に応じて使っているという立場です。

(**)アーノルド・ミンデル博士の提唱するモデル。システムコーチングではミンデル博士より許可を頂いて、このモデルを取り入れています。

――お二人とも自分自身を見つめ直した先にシステムコーチングと出会い、気づきを得たのですね。その後システムコーチとして、どんな思いを持って組織の中に入っていったのですか? 

受け入れられるか抵抗感があった

Ms. Komura
戸村さん

私の場合は「アジャイル組織の導入」という、まさにピタッと合致するタイミングが来たので、「私はこのために資格を取ったのだ」と思うぐらいうまく波に乗れました。ただその前を考えると、苦労というよりは、自分の中に社内でシステムコーチングをすることに対する、いわゆる「エッジ(*)」という抵抗感がありました

そこには2つ理由があって。1つはシステムコーチングは目に見えないものを扱うので、なかなかエビデンスは示しにくいですし、論理的ではないと思われるのではないかという不安がとてもあったんです。だから気をつけたのは、いきなりコーチングの言葉を出すのではなく、「チームビルディング」とか、「ダイバーシティ&インクルージョン」における対話の重要性とか、会社の戦略に結びつけることをまずは大事にしました

もう1つ、私の心のハードルになっていたのは、「社内だから失敗できない」という気持ちです。「完璧なセッションをやらなければいけない」という心のバリアもありました。しかし、「そもそも何のためにやるのか?」というところから入っていくと、「意外と皆さん、話すのが好きなんだな」とか、「この位やってくれるんだな」というのがつかめてきて。そうすれば自信を持って進められるし、そうやって抵抗感を乗り越えた部分がありました。

最初は会社の文化とフィットしなかった

Mr. Mitsuhashi (speaker)
三橋さん

社内で個人コーチングを始めたときは、例えるならば、「靴のない島に入って、靴を売る」ような感じでした。組織の中で新しいことをやっていく時に一番大事だと思うのは、「体験して理解してくれる人を増やすこと」です。当時はまだ100人ぐらいの規模の会社だったんですが、まずはどんな形でもいいので全員にコーチングを体験してもらって、味わってもらうのを一番大事にしました。

「ちょっとコーチング体験してみない?」と言ってランチに会議室へ呼んだり、ある部門の部長さんに掛け合って、その部門の何人かに一定期間コーチングして変化を見ていくなど、草の根で進めていったのが僕のやり方でした。

一番の苦労は、最初はコーチングが会社の文化とフィットしなかったことです。多くの会社もそうだと思うのですが、会社が一番求めるものは事業成長ですよね。検証して、何かをできるようにするというよりも、事業に向き合うことが成長の手段であるという考え方だったので、コーチングをするという文脈が全くありませんでした。その文化の違いがすごく分かり合えない感じがして、苦しさがありましたね。「これがいいんだよ」って言っても、体験してもらえない限りはうまく伝わらないところが苦しかったです。

人やチームの本音が明らかになってしまう

システムコーチングの文脈でも同じようなことがあって。「システムコーチングをやりたい」と言った時に、けっこう力のある人から「リスクだからやらない」って言われたんです。

想像するに、システムコーチングは、人やチームの本音が明らかになっていく、声なき声がどんどん出ていって、現状が分かってくというツールだと思っていて。その人は事業推進のためにチームを思い通りに動かしたいという気持ちがあって、そこでいろいろな声が出てきてしまうと処理ができず、事業成長の足かせになると考えたのではないかと思います。

僕はその時すごいショックで、会社を辞めようかと思いました。結果、辞めずにいますけれども。文化や推進する役職者の考え方によって、困難はあると思います。

システムコーチングを導入するということは、社内の人間関係の課題を明らかにするということであり、最初はすんなりいかないというのは共通していることかもしれません。後編では、いかにしてそのハードルを乗り越えて社内にコーチング文化を広めていったのか、お2人の奮闘を引き続きお伝えします。



【後編】こうしてシステムコーチングは社内に広まっていった

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