可能性を拓く新たな智慧「システム・インスパイアード」とは何か(後編)答えはシステムの中から立ち上がってくる
APAC横断国際イベント
可能性を拓く新たな智慧「システム・インスパイアード」とは何か。
(英題 Into the Heart of “Systems Inspired”)
日本、中国、そしてシンガポール、オーストラリア、ネパール、ニュージーランドなどAPAC各国から、100名以上がオンラインで集いました。
テーマは、「システム・インスパイアードとは何か」。
登壇したのは、約30年前にORSC*1を立ち上げたMarita FridjhonとFaith Fuller。
そして、CRR Global Japanを代表し、創始者とAPACコミュニティをつなぐ役割を担った KEIKO でした。
前編では、創始者二人の言葉を通して、ORSCコミュニティの学びの場がどのように立ち上がったのか、そして「システム・インスパイアード」という概念が、関係性やフィールドの中から立ち上がる知性としてどのように語られてきたのかを辿りました。
さらに、複雑に絡み合う世界のシステムの中で、私たちは「どのシステムと協働するのか」を選ぶことができるという視点も共有されました。
では、その「システム・インスパイアード」という、どこか掴みづらくも深い概念は、どこから立ち上がってくるのでしょうか。
後編では、その核心にあるキーワード 「第三の存在」 に焦点を当て、さらに探究を深めていきます。

衝突の背後にある「もう一つの声」を聴く
MARITA:
第三の存在は実際どのように現れるのでしょうか。
むしろ第三の存在と呼ばなくても構いませんが、たとえば二人以上の間で衝突が起きたときです。
わたしたちは一歩引いて全体を見る必要があります。
双方に十分に語ってもらい、第三の存在から「どこへ向かいたいのか」を聴くのです。
ここで、一つ実際にあったお話を共有します。
私がアメリカで関わったクライアントの話です。
彼女と夫には、神経多様性のある子どもがいました。
ある時期、その子は突然とても攻撃的になり、食べ物を投げ、何も食べなくなりました。
健康が心配されるような状況でした。

母親は、ORSCのトレーニングを受けていた人です。
彼女は勇気を出して、8歳の娘にこう言いました。
「ゲームをしない?」と。
「テーブルで起きていることについて、何が嫌で、何がつらいのか、まずあなたが話して。
そのあとで、私も話していい?」
娘は同意しました。
娘が思いのたけを語り、次に母親が自分のつらさを語りました。
そのようなやり取りを続けた後、母親は言いました。
「一緒にテーブルの端っこに座ってみない?」
「今ここでは、私は“お母さん”ではなく、あなたも“子ども”ではない。
私たちは“関係性”としてここに座っている」
「この関係性に聞いてみよう。
食事のことで、私たちにどんなアドバイスをくれる?」
しばらく沈黙がつづいた後、娘は言いました。
「母は、いつも買い物を自分で全部決めている。
娘にも選ばせるチャンスを与えて」
そこで二人はすぐにスーパーへ行き、カートは娘が押し、自分で選びました。
彼女が特に拒否してきた果物や野菜を、自らどんどん選んでいきました。
ここで見てほしいのは、どのレベルであっても、
システムの中の声が十分に表現されると、
システム自身の知性が問題を解決するということです。
コーチが解決するのでも、個人が解決するのでもありません。
それが、システム・インスパイアードな変化です。
複雑であり、同時にとてもシンプルなのです。
FAITH:
別の言い方をすると、答えはシステムの中から立ち上がってくるということです。
そのためには、深層民主主義が必要です。
システムの真実すべての声が聴かれること。
時間がかかることもあります。
とても長く感じることもあります。
でも、時間をかけることで、フィールドそのものから知恵が立ち上がります。
第三の存在が道を示してくれる
KEIKO:
CRR Global Japanでは、毎月のビジネスミーティングで
「来年どうするか」「コースを増やすか」といった合意的現実の(現実的な)話をします。
でも同時に第三の存在の知恵を使いました。
それぞれの声を聴いた後、「CRR Global Japanという存在」の声に耳を澄ますと・・。
(ここではそれが第三の存在に相当)
感謝が出てきました。謝罪も出てきました。
そしてそれが、進むべき方向をとても明確にしてくれました。

MARITA:
今起きているこの会話そのものの中にも、それ(システム・インスパイアード)を見ることができるということもお伝えしたいと思います。これは、ORSCやCRR Globalの神話の起源の一部でもあります。
Faithと私は、今振り返ってみるとそれがよく分かりますが、当初は、ただ何かが私たちを通して立ち上がってきて、それに従っていただけでした。
私たち自身の思考や在り方が成熟し、進化していくにつれて、それは徐々に形を取り始めました。
そして今では、私たちは世界とまったく違う形で出会うことができますし、
みなさん自身も、「システムはいま何を求めているのか」「それに私はどう関わることができるのか」という好奇心を育てていくことで、まったく違う形で世界と出会うことができるようになります。
あるシステムは崩壊のプロセスにあり、また別のシステムは再生のプロセスにあります。
それは、人間である私たちにとって、決して簡単な状態ではありません。
無数の声と小さな変化
MARITA:
こうした問いと共に座ることができること、みなさんが自身の個人的な進化の段階にいることに、心から敬意を表したいと思います。
そして、私たちの扱っていることの複雑さにも敬意を表したい。
ここに何人いるかを見ると・・104人と表示されていますが、それは本当ではありません。
104人の一人ひとりの中に、少なくとも15の声が存在しています。
つまり、ここには何千人分もの声があるのです。

私たちの仕事の一部は、それぞれの人の中にある多様な声を理解し、すぐに「直そう」とするのではなく、スピードを落とすことです。
Faithと私が、チームなどと仕事をしていく中で気づいたことの一つは、「小さな成功や前進を祝うことが、継続的にできていない」ということです。
私たちは常に、次に成功させるべきこと、次にやるべきことを見ています。
しかし同時に、すでに起きている小さな変化を見落としてしまっています。
特に、今私たちが生きている文化の中では。
あなたにはすでに備わっている
FAITH:
ええ。そして、みなさんはすでに、ほぼ全員が「システム・インスパイアード」に触れています。
それは、自分の中に「表現したいもの」「世界に出ていきたいもの」「何かを成したい、何かで在りたい」という衝動があるところから始まります。
それは個人的なインスピレーションですが、同時に、あなただけのものではありません。
より大きなシステムが、あなたの才能、能力、不安、可能性を通して、この世界に働きかけようとしているものなのです。
つまり、あなたはすでに、システムがこの世界に働きかけるための一つの入口になっているのです。
ただ、私たちは普段そうは考えていません。
でも、そう考えてほしいのです。そうすれば、正直なところ、時間を無駄にしなくて済みます。
今それを自分のものとして引き受けるなら。
FAITH:
英語には「ライトワーカー(lightworkers)」という言葉があります。
何かを「直そうとする」ようなやり方ではなく、進化できる可能性を感知することで、世界をより良くしようとする人たちのことです。

でも、その理解がまだないシステムの中で働きかけるのは、とても大変です。とても消耗します。
だから、岩を動かそうとしなくていい。小石を動かすだけでいいのです。
大聖堂を建てようとしなくていい。できることを、できる範囲で。
どうか、自分自身に寛大でいてください。
MARITA:
そう、「リハーサル」の力を使ってください。
同じ体験をしている仲間と一緒に座り、どう関わるかを実際に練習してみる。
それはあなただけの体験ではありません。そこには大きなパラレルプロセス*2があります。
それを理解すればするほど、私たちはより良く支援できるようになります。
KEIKO:
リハーサルといえば、2日前、家族と温泉に行きました。
早朝、誰もいない温泉で、私はこのイベントのリハーサルをしていたんです。Maritaと話している自分を想像して。
でも今日突如、Faithも加わることになって、「今まで(違う前提で)十分準備してきたのだけど・・」と思う一方で、「常に新しいものが立ち現れるんだ」と思い出しました。
だから、「準備してきたものはいったん手放して、今ここに在り、ここから共につくろう」と思ったんです。
そして今、この会話をとても楽しんでいます(笑)。
Marita & Faith:
(笑)それは素晴らしいですね。
FAITH:
日本には、世界の他の地域がまだ十分に理解していない、大きな道徳的理解があると思っています。
皆さんは本当に多くのものを持っています。
自分自身の進化や成長そのものが、世界への貢献です。
システム・インスピレーションを探しに行かなくていい。
あなた自身が、すでにシステム・インスピレーションなのです。
それを払いのけず、受け取り、さらに自分の成長に開いてください。
そう、あなたにはすでに備わっているのです。

(*1)ORSC: Organization and Relationship Systems Coaching; 通称システムコーチング
(補足)厳密には30年前はまだプログラムとして立ち上がったわけではなく、その源流となる動きが始まったタイミング。
(*2)パラレルプロセス:(心理学的定義)心理相談やソーシャルワークのスーパービジョンにおいて、スーパーバイザー(指導者)とスーパーバイジー(相談員・研修生)の関係性が、そのままスーパーバイジーとクライエント(利用者)の関係に反映される現象