【システム・インスパイアード・リーダーシップ著者インタビュー】大企業がこのアプローチを取り入れるには?
2022年1月。関係性システムをベースにした新しいリーダーシップの形【システム・インスパイアード・リーダーシップ】を説いた書籍がアメリカで出版されました。
著者は、システムコーチングの創始者でありCRR Global代表のマリタ・フリッジョンと、グローバル大企業シェルで実際にシステムコーチングを組織に導入してきたフランク・ウイト・デ・ウエルド。
本書では、関係性システムをベースにしたリーダーシップについて、実際に現場でシステムコーチングを実践することに重きを置いて語られており、システムコーチだけでなく組織の中にいる世界中のたくさんのリーダーたちがそれを実践する力になっています。
そしてめまぐるしく変化する世界の中で、新しいリーダーシップのあり方を模索する動きは日本でもさらに加速し、先日5月23日、それに応える形でついに日本語版が出版されました。
日本語版の出版に先立ち、本著の共同著者である2人が、そこに込めた思いや誕生秘話、出版に至るまでの背景などをたっぷりと語ってくれました。
今回はフランクとの対話について、そのハイライトをぎゅっとお届けします。
KEIKO:フランク、ようこそおいでくださいました。(イベントに参加している)皆さまも、ようこそ。
私はCRR Global Japanのファカルティ(トレーナー)を務めています、村松 圭子(KEIKO)です。よろしくお願いします。
フランク:皆さんにお会いできてとても光栄です。ありがとうございます。
KEIKO:フランク、あなたは本書【システム・インスパイアード・リーダーシップ】をCRR Global創設者で代表のマリタと一緒に書かれて、自国のオランダ語への翻訳も担われましたね。
まずはこの本について、背景なども含めて話していただけますか。
目次
リーダーたちが実践するための方法を伝えたかった
フランク:
まず背景からお話すると、私は25年間シェルっていう石油会社・多国籍企業に25年間勤めていました。そして、そういう会社にORSC(システムコーチング)アプローチがどれだけ重要かを痛感していました。
しかし、ORSCはコーチに対して(アプローチを)伝えてきましたが、それをリーダーに対してどう伝えていくかは明確ではなかったんです。
たとえば会社の中でワークショップを開いても、「まぁでも私はコーチじゃなくてリーダーなので、実践するのはちょっと難しい」なんて声を聞きました。
それでも私はずっと、ORSCのアプローチをリーダーに対して適用しようとしてきました。このコンセプトをリーダーたちに届けるっていうことに、すごく情熱があったんです。
そしてそれを実践的な形にして体系的に伝えていこうとしたのが、本書です。
リーダーたちが使えるようにするための工夫
この本は、多くのORSCers(CRR認定のシステムコーチたち)そして組織でリーダーをやっている人たち、そういう人たちの真実のストーリーをベースにしています。
たくさんのインタビューに基づいており、現場で実践するための智慧が詰まっています。インタビューを受けてくれた一人は、まさにここにいるKEIKOでした。ありがとう。本当に素晴らしいインタビューだった。今でも心に残っています。
本書の構成について少しお話すると、まず1-5章で具体的なツールについて詳しくお伝えしています。「やり方(doing)」ですね。非常に実践的であり、どこから読んでもツールとして使えるものになっています。
対して10章には「あり方(being)」があり、これはシステム・インスパイアード・リーダーシップにとって非常に大切な側面なのですが、あえて「やり方(doing)」を先に詳しくお伝えすることで、リーダーが入っていきやすいような工夫をしています。
システム・インスパイアード・リーダーシップとは?
KEIKO:フランク、あなたにとってシステム・インスパイアード・リーダーシップって何ですか。
フランク:
答えはシステムの中に存在していると、 そしてそれが紐解かれるのを待っていると信じているリーダーシップのあり方だと思います。
人々が何をすべきかを伝えるようなリーダーのあり方とは対照的なものであり、そのようなリーダーとは全く別のコンピテンシー(優れた成果を創出する個人の能力・行動特性)を持つ必要があると考えています。答えが生まれてくるのを助けるようなコンピテンシーです。
関係性の繋がりが強いほど課題解決はしやすい
KEIKO: シェルでの25年の組織経験は、この本にどのように影響したのでしょうか。
フランク:シェルはとても人を大切にする会社で、システム・インスパイアード・リーダーシップとは親和性がありました。
同時にシェルという会社は、ORSCのメソッドから学ぶこともあると思っていました。特に関係性がもたらす力というところに、まだまだポテンシャルがあると思いました。
企業組織というのは、「結果」を重視し過ぎることがあり、それによって、人々やその関係性を壊してしまっている場合もあります。
システム・インスパイアード・リーダーシップは、関係性の繋がりの網を創ることができます。その繋がりが強いほどに課題解決はしやすくなっていくのです。
分析的なアプローチを補完するもの
シェルという会社には技術者がたくさんいて、非常に分析的なアプローチをします。
何が問題であって、何を取り替えないといけないのか、そうすればこういう風に解決するみたいなアプローチです。
一方でシステム・インスパイアード・リーダーシップでは、関係性システムに繋がりにいくことを促します。
「システムに何が起ころう、現れようとしているのか」という視点から物ごとが見られるようになります。
そうすると、もともとあった課題というものが再定義されます。その新しい課題に対する新しいソリューションから、変革のブレイクスルーというものが起きるのです。
複雑でかつすごいスピードで変化している今のような世の中において、非常に大切なポイントになると思います。
これは(たとえば分析的なアプローチなどの)既存のやり方をいい形で補完できるものです。もともとあったものをどかすのではなく、そこに付け加えるような感じですね。
KEIKO:
いいですね、その考え方。何かに対してノーを言うのではなくて、サポートしていって、より広い幅を持たせるっていうことですよね。
企業に導入していくためのポイント
KEIKO:
ORSCの実践家として私自身感じるのですが、いわゆるトップダウンであったりとか、ビジネスというものがつい先に来てしまうような企業組織に対してこういうメッセージを伝えていくことは、我々の共通のチャレンジだと思います。
そんな中、フランクはどうやってこれを企業に持っていっているのかっていうことも、ちょっとお聞きしたいです。
フランク:
いくつかポイントがあります。
まず今のありのままのシステムの状態に出会っていくというところからスタートします。
それは自分が理想とする姿とは違っていることが非常に多く、チャレンジングなことでもあります。例えば非常にトップダウンの強い会社であったり、非常に男性が強い組織であったり。
でも「やり方間違ってるよ」っていう風に入っていくと、うまくいきません。
私がやっているのは、最初にチェックイン*1をして、ちゃんと声を聞いて、そして必ずDTA *2をします。そうすると、違った空気に変わっていきます。
必ずしもORSCのツールを使うわけではないんですけれども、必ずORSCのコンピテンシーは意識するようにしています。
ディープデモクラシー(深層民主主義)とかですね。場の感情を感じ取ったり、それに働きかけていくとか。システムを明らかにしていくとかです。
そうやっていくと、「何をやったかはわからないけれども、何かが変わったし、何かが起ころうとしている」っていうような感想をよく聞きます。
そこからさらに教育をしたりしながら、成長を促していきます。私はそういうふうにして、企業の中に導入していっています。
*1チェックイン: ミーティングなどの冒頭、参加者一人ひとりが今の気持ちや状況などをシェアすることでその場に集中しやすくなるツール
*2 Designing Team Alliance: チームの意図的な協働関係。チームが何を求めていて、それが上手くいかない場合はどうすればいいのかを明らかにするツール
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次回は【システム・インスパイアード・リーダーシップ】のもう1人の共同著者であり、CRR Globalの共同創設者のマリタ・フリッジョンとの対談を記事にしてお届けします。どんな物語が繰り広げられるのでしょうか。お楽しみに。