成熟企業にORSCの力をORSCC横山佳菜子さん
michinaru株式会社 取締役・共同創業者 /ORSCC 横山佳菜子さん
目次
未知なる扉を開く挑戦者で溢れる世の中にしたい
現在michinaru(ミチナル)という会社で、企業の事業創造や組織開発に外部から関わっています。創業は2020年。社名は“未知なる”から来ていて、「未知なる扉を開く挑戦者で溢れる世の中にしたい」という想いを込めています。
支援しているのは“成熟企業”です。歴史が長く、日本のここまでの経済発展を支えたレガシーな事業をしている企業をそう呼んでいます。成熟企業の方々は新しい事業を創ったり、変わろうとするのにすごく苦労していることを目の当たりにして、一緒に突破口を開くことができないかと思って活動しています。
皆が語り草にするぐらいパワフルな場
前職は組織人事コンサルティングの会社で、今と同じような仕事をしていました。その時の会社の先輩の中にORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)の実践コースへ参加していた人がいたんです。
ある時、自社のグループ会社のチームマネージャーが組織マネジメントがうまくいかず、すごく悩んでいました。今思うと恐ろしいのですが、その時実践コースに行っていた先輩と一緒に、見様見真似で「ディープ・デモクラシー・プロセス」*1というORSCのツールを使って、そのチームにセッションをすることになったんです。
*1 多様な役割・立場を演じることで様々な声を体験するワーク
その組織は頑張り屋の女性たちが多く、組織貢献を優先するがあまり自分を犠牲にした仕事の仕方に疲弊が積もっていました。歪みが出て、関係性の水面下には毒素も生じていました。そんな中、セッションでこれまで出してこなかった本音を涙ながらに話したんです。
すごく難しい場でヒリヒリしたし、今もあのパンドラの箱は開けて良かったのかという気もするのですが、皆が語り草にするぐらいパワフルな場でした。今までの話し合いとはまったく違う質感のもので、「ORSCというのは、なんという知恵だ!」と思いました。
なんとなくできるをもう一段深めたい
その数年後の2019年12月、本格的にORSCの学びを始めることにしました。理由は、子どもが小学校中学年になり、ちょっと手が離れた感じがあったこと。
もう1つが、なんとなくできるファシリテーションとなんとなくできる見立てをもう一段深めたいと思った時に蘇ったのが、数年前に前職の先輩と一緒にやった「ディープ・デモクラシー・プロセス」だったんです。あれ以上に深くて、熱くて、怖い場はなかったと思い、ORSCを学びに行こうと思いました。
行ってみて思ったのは、まず「難しいな」ということ。ORSCにはすごくパワフルな知恵があるのですが、実践するとなるとすごく浅くなる自分がいて。「その差分はなんだろう?」というのは、応用コースの時にずっと思っていました。
そんなこともあり、次の実践コースへ行くことをかなり躊躇していたんです。ORSCは習得というより体得できるものかもしれませんが、かなり深みがあると感じていて。これを本当にやっていこうとするならば、仕事も含めて心理的な負荷があるし、向き合うことに対する恐れみたいなものが結構頭をもたげていました。まさにそれは私の中のエッジ(変化の妨げになる心の障壁)でした。でも、やってみたら何とかなるかもという気持ちもあって、実践コースに飛び込んたんです。
システムには知性と力があると確信
すると、大きな変化が起きました。これまで場をつくる時は「ファシリテーターがその場の目的を達成しなければいけない」と思っていました。準備しても、準備しても怖いし、場に参加する参加者がその目的達成に不都合なことを言ってきた時には、「そういうこと言わんといて」と思っていました。
そんな私が、場が怖くなくなってきたんです。100時間の実践の中でクライアントを通じてシステムの変化を目の当たりにしたこと。私自身も含めて、一緒に学んだ仲間たちがトレーニングキャンプで雪崩のようにエッジを越えて、こんな風に変わるのかとインパクトを感じたことが大きかったです。
今も怖いことは怖いんですけれども、「システムには知性と力がある」と、本当の意味で信じられるようになって、場に身を預けられるようになりました。
仕事や関係性の固定化に風穴を開けたい
私のワールドワークプロジェクト*2は、成熟企業にORSCの力を届けることです。ORSCが自分たちに必要だと思っていない人たちにこそ必要な知恵なのではないかと思い、そこに届けることに使命感を持っています。
*2 ORSCの知恵を使い、目の前に起きているさまざまな問題・課題に働きかけ、より良い関係性(Right Relationship)を共に作ろうとする取り組み
成熟企業は歴史も長いし、事業も安定しているので、去年やっていることを今年もやるとか、先輩に教えてもらったことをやるとか、すごく“過去慣性”に縛られてしまうんです。そうすると仕事内容や取り組みだけではなく、自分との関係性やチームの中での関係性も固定化してしまいます。
そこに風穴を開けたいと思っている人は多いのですが、そこが強固で、一人の力では開けられなくてあきらめてきたという人がたくさんいました。中には挑戦疲れをしている人もいて、「何もしない方が楽だ」と学習性無力感を感じてしまうこともあるようです。そんな状態だからこそ、成熟企業にORSCを届けたいと思っています。
未知なる姿を引き出すファシリテーション
これまで関わってきた中ですごく印象的だったのは、ある成熟企業の部長へのセッションです。
彼らはこの会社の事業を支え、牽引してきたという自負があるんですが、事業は先細りし、若手は辞め、自分と同じような熱量でついてきてくれるメンバーは減っているという状態でした。しかも経営陣との意思疎通も難しく、皆さんが孤立し自信をなくしているように見えました。
そんな時に、カウンターパートの人が「合宿をやろう!」と言い始めて。20数人いる全ての部長が集まりました。
初日のチェックインで、半分の人は「良い機会にできれば」と話していたのですが、もう半分の人からは「こんなタイミングで部長同士で結束して何になるんだ」「本当にやるべきことはこれじゃないだろう」と言う声が出ていました。
その後、ORSCのツールを使いながら、部門ごとに相互理解を進めたり、夢を語り合うなどして順調にセッションは進んだのですが、時々笑うような話ではない時に変な笑いが起きていました。予定調和に進むけれども、真に話されるべきことが場に出ていないシグナルだと思いました。
その夜の飲み会で、ある人が「人事は何を考えているんだ。僕らのこと、事業部のこと、本当にわかっているのか!」と声を荒げました。それに対して人事の人は「いつもそんなことばっかり言うけれども、おまえから新しい話が出てきたことはない!」と言い返したんです。ここに対立したがっているエネルギーがあるのだと思いました。
翌日皆さんに「本当は経営陣との関係性に一番頭を抱えていらっしゃるのではないかと思います。結果の質を変えようとするのであれば、まずはこの部長陣での関係の質を変えないことには変わらないんじゃないでしょうか」と話し、「一度、この部長陣で思いきりぶつかって、思いきり二次プロセス*3へ行ってみませんか」と提案したんです。
*3 一次プロセスは、今認識している世界。二次プロセスは、認識していない未知の世界を指す
そしたらその提案に乗って下さって、本当は何に困っているのか、部長陣としてのエッジをちゃんと見つめて、「どう越えていくか」という話がすごく建設的になされました。
最後のチェックアウトでは、「自分は長い間さみしかったということに今日気づきました」「仲間はここにいたんだと思うと、久しぶりに月曜日会社に行くのが楽しみです」という声が聞かれました。「成熟企業にORSCの力を」という思いで学んできましたが、それが結晶化したような瞬間でした。
振り返ってみると、ORSCを学ぶ前はガチガチにシナリオを作って、「自分を守るファシリテーション」をしていましたが、学んでからは、「未知なる姿を引き出すファシリテーション」へと変化したのだと感じました。
“ミドルの覚醒”にアプローチしたい
今後もORSCを使って、“ミドルの覚醒”にアプローチしたいです。自信をなくして「このままで良いのか」と思っている成熟企業のミドル世代の人たちが、パンドラの箱に向き合ったり、遊び心や好奇心をもう一度取り戻して、”軽やかなミドル”になるのをサポートできればと思っています。
もう一つ取り組みたいのが、女性のリーダーシップの解放です。私自身も女性として、組織の中で成長させてもらったと同時に苦しかったり悔しかったりしたので、そこにも熱い思いがあります。
ミドル世代の人たちがちょっと元気になったり気がゆるんだりしたら、女性たちも前へ出やすくなり、女性たちが組織に風穴を開けたら、今度はミドルの人たちもさらに勢いづくのではないかと思います。これは表裏で、良い循環、相互に触発する関係なのではないかと感じています。その両方の方々を元気にして、挑戦で溢れる成熟企業を増やしたい。そう思っています。
▼michinaru株式会社
【編集後記】実践コース残り3か月位のタイミングで、社名のmichinaruが2次プロセスのことだと気づいた横山さん。「自分を守るファシリテーション」から「未知なる姿を引き出すファシリテーション」への変化は、横山さんがエッジを越えたからこそ体得されたのだと感じました。柔らかい物腰と芯の強さを持つ横山さんが伴走したら、人も組織もどんどん覚醒していくことでしょう。(ORSCCのライター:大八木智子)