多様な背景や個性を持った子どもや若者たちを支援したいORSCC⼭﨑直⼦さん

合同会社NOKs Labo代表/ORSCC ⼭﨑直⼦さん

以前はメンター、今はファシリテーター

大学を卒業して以来、日本の金融機関と外国の金融機関でバンカーとして働いてきました。会社に勤めていた頃はライフワークとしてボランティア活動をしていましたが、今はそれが仕事になっています。

具体的には、多様な背景や個性を持った子どもや若者たちに向けて社会貢献プログラムをおこなっています。以前私が働いていた企業がスポンサーで、参加しているのは外国にルーツがあって日本語がまだよく使えなかったり、児童養護施設にいたり、手話を主言語としているような子どもたちです。

プログラムでは、スポンサーをしている企業の社員と一緒にお互いを理解しながらチームとなって、様々なことにチャレンジしていきます。その体験を通して、ダイバーシティやリーダーシップ、コミュニケーションスキル、チームワーク、自己肯定感について学んでいきます。以前は企業の社員として子どもたちのメンターをしていましたが、3年前からはファシリテーターとして関わっています。

多様な背景や個性を持った子どもや若者たちに社会貢献プログラムをおこなっています

子どもの頃から「この地球にお返ししたい」

社会に対して何かできればと思ったきっかけは、小学校低学年の頃、「24時間テレビ 愛は地球を救う」でアフリカの飢餓の映像を見たことでした。「なぜ、私はあそこに生まれず、ここ日本に生まれてきたのだろう」と思い、子どもの頃から自分の持っているものを「この地球にお返ししたい」「自分ができることを世の中にしたい」と思っていました。

しかし、中学に入ってからは、社会貢献で誰かを助けるのは自己満足、自己欺瞞の世界なのではないかと考えるようになりました。貧しい人を貧しい人と決定づけて、その人たちを助けることで、「自分は何て良い人なんだ」と自己満足をしているだけなのではないかと。そこからしばらくは、自分から動こうという気持ちはなくなりました。

子どもに必要なのは、教育と経験とネットワーク

大学に入ってから発展途上国について勉強をし、キューバ、メキシコ、フィリピンなどを旅行する中で、再び考え方が変わっていきました。ライフワークとして、「子どもの教育」に関わっていきたいと思うようになったんです。お金を出すだけではなく、何かしようと考えていました。

30代後半の頃、会社で1ヵ月休暇をもらえたので、3週間アフリカを旅しました。貧民街などを見て回る中で、子どもたちに必要なのは、「教育」と「経験」と「ネットワーク」(人と人とのつながり)だと確信したんです。

「魚を与えるのではなく釣り方を教えた方が良い」という考え方がありますが、この3つは、いくらお金を奪われても、いのちがあればなくなりません。これらを必要としている子どもたちに提供していければと思いました。


1対1のコーチングの技術では足りない

本格的に子どもに関わる活動を始めたのは2012年です。その中でコーチングを活用しています。元々会社の研修で1対1のコーチングに出会ったのですが、仕事をする上でも大事ですし、そのスキルをちゃんと身につけたら、もっと自信を持って子どもたちに関われるのではないかと思い、本格的に勉強しました。

その数年後、新型コロナウィルスの感染が始まったんです。タイムラグなく世界中とオンラインでつながったことで、コロナが明けた時には、おそらくコミュニケーションの取り方が全く違う世界が出来上がるだろうと思いました。

多様な背景や個性があることで元々コミュニケーションが難しい子どもや若者たちにとっては、本当に大変な時代がやってきたと思います。だからこそ、人と人との結びつきがもっと大事になり、見えない「関係性」を扱ったり、人をエンパワーすることがいっそう必要になると確信したんです。これから子どもたちをさらに支援していきたいと思い、2020年12月に会社を辞めました。

その後、先述したプログラムを実施していくに当たり、1対1のコーチングの技術では足りないと感じるようになりました。人と人との関係性やチーム全体を扱えるようになれば、もっとファシリテーターとしてできることが増えるのではないかと思ったんです。

そんな時に、組織と関係性を扱うORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)を知り、門を叩きました。


ORSCは「フォースの道場」であり「あり方」

学んでみて思ったのは、「ちょうどいい」でした。ORSCのプログラムの中にはしっかり理論が入っていて、数字や事実など現実的なことを扱う一方で、感覚や感情も扱います。その両方が大事だと思っていたので、私が料理しやすく、私にとってちょうど良かったというのがあります。これがORSCの一番の魅力でした。

もっと言うと、ORSCはスターウォーズで言うと「フォースの道場」のように感じています。ORSCで大事にしているものをしっかり押さえて、起こるべきものが立ち上がってくるのをつかんで、その姿をシンプルに伝える力を基礎体力として持っていると、ワークショップのすべてのワークが豊かになると感じています。ORSCを学んだことをきっかけに、ワークショップ等での目の使い方が変わりました。前に比べて1人をじっと見なくなったというか、個を観なくなりました。

それから、よくコーチングのコンピテンシーで「あり方」と言いますよね。コーチの「あり方」という言い方で使われていますが、私はORSC自体が「あり方」だと思っていて。ORSCは説明しにくいという話を聞くことがありますが、そもそも説明するものではないというのが私の感覚なんです。スキルや手段、ツールとして使おうとすると伝わらない。「あり方」まで修練しておかないと、と思っています。

自信を持って社会に参加してもらえたら

このORSCの知恵をどんなシステム(関係性)に使いたいかという私の「ワールドワークプロフェクト」は、先程も触れましたが、子どもや若者たちに対してです。多様な背景や個性を持ち、生きづらいと感じている子が、「自分なんて」というところから、「自分だからこそやれることがある」と自信を持って社会に参加してもらえるようになればと思っています。

具体的には、ファシリテーターとして1年間のプログラムを通じて子どもや若者たちを支援しています。対象は高校生で、今では卒業生が120人位になりました。乗り越えなければいけない壁は人それぞれどのタイミングでやってくるかわからないので、長期にわたってサポートする目的で、卒業生向けにもプログラムを実施しています。


その中でORSCの知恵を使っているのですが、例えば、セットアップの時にはDTA(Designed Team Alliance=チームの意図的な協働関係)を使って皆の約束事を毎回決めています。場のあるあらゆる声に耳を澄ませるディープデモクラシー(深層民主主義)という考え方も大事にしていて、「小さな声ね、小さな声」とひらすら言っています。

丁寧に説明しながらファシリテーションをする直子さん

あらゆるダイバーシティをまとめる大変さ

このプログラムを行う上で難しいのは、10~50代までの子どもと大人を1つのチームにまとめることです。関わってくれる企業の大人たちは社内における上下関係や肩書によってそもそもチームにすることが難しく、中には日本語を話せない人もいます。そこに、背景も個性も多様な子どもたちが加わります。


国籍・文化・肩書などのランクがあり、タイムスピリット※1もある中で、このあらゆるダイバーシティを1つのシステムとしてまとめていくのは、ファシリテーターとして本当に難しいと感じています。

さらにいうと、山野哲平さんというコーチと一緒に2人で場を作っていますが、彼は海外に住んでいるため、このプログラムにオンラインで参加しているんです。元々オンラインで参加する大人がいるので、ファシリテーターもオンラインで良いだろうという発想です。そして、これはオンラインとオフラインのハイブリッドでプログラムをおこなっています。その時間が終わった時には、いつも2人でくたくたになっています。

皆が「ダイバーシティ」の意味を理解してくると、それぞれに対して敬意が現れてきます。その多様な人たちから何かが立ち上がってきた時には、半端ない喜びがあるんです。プログラムのワークの中で、参加している子どもが「ここは本当に優しくて、私はここにいていいんだと感じた」と話してくれた時には、心が震えてしまいました。

くたくたになるほどの難しさがある一方で、強烈な喜びも感じています

G20でORSCを体験してもらいたい

この先にある私の野望ですが、G20で首脳たちにORSCのあり方を持ち込んで、「ディープ・デモクラシー・プロセス」や「ランズワーク」※2をはじめとして、様々なワークを体験させちゃいたいなと思っています。例えば、「先進国」と「後進国」、「イスラム教」と「キリスト教」みたいなくくりでランズワークをしてみたら面白くないですか?


国家元首が動きやすい恰好で集合して、なんなら言語ではなく、他のチャネルを使って今の気持ちを体で表現したりしたら最高じゃないですか! この20カ国の首脳たちが一瞬でも自分たちを1つのチームだと感じることがあったならば、世界に一体何が起こるのでしょう。想像するだけでワクワクします。

関係性をつくるには遊び心も大事!

私は目の前のことしかできないから、目の前にいる人が変わっていくために、私が知っているものを渡しながら皆さんが動き出すのを待っている感じです。でも、行きたい向こうの方は見ていますね。ずっと、確かに。

※1 タイムスピリット:個人を超えて、その背後にある文化や歴史のように、社会の根底に存在している考え方や価値観

※2 ディープ・デモクラシー・プロセス:多様な役割・立場を演じてみることで、様々な声を体験するワーク
  ランズワーク: 価値観や文化などの内的世界を国にたとえ、旅人のようにその国を味わいながら相互理解を図るワーク


▼NOKs Labo https://nokslabo.com/

【編集後記】
小さい頃から、“地球人”として世界に対する視点、視座を持っている直子さん。インタビューで「G20で首脳たちにORSCをしたい」という話を聞いた時には、もう拍手喝采でした。たぐいまれなる発想力と巻き込み力を持った直子さんなら、必ず実現できると信じています!(ORSCCのライター:大八木智子)