人も自然も全部つながって生きるCRR Global Japanファカルティ佐藤扶由夫 さん
大人になってもわからないから
ORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)のファカルティとして、世代としては年長になってきました。メインはCRR Globa Japanの国内での仕事ですが、世界20ヶ国以上で展開されているCRR Global のファカルティとしても活動しています。後進育成というと口幅ったいですが、新しく入って来たファカルティの人材開発のお手伝いもしています。

隣はCRR Globalファカルティ(当時)のAlexsandra
その他、組織から依頼があった時のみ個人向けにもコーチングをおこなっていますが、軸足は一貫して企業や非営利組織を対象としたORSCです。また、IMD(International Institute for Management Development)という国際的なビジネススクールでも契約コーチを務めています。
さらに、仕事という枠組みを超えて、自分の中で思い入れを持ってコーチ仲間と共に関わっているのが、「信頼社会共創プロジェクト」です。これは「信頼」をテーマにしたワークショップと、その後のリフレクション(振り返り)を組み合わせたプログラムで、参加者と共に信頼について深く掘り下げ、広げていくという取り組みです。信頼は、家庭でも仕事でも、関係性の大切な土台となると思っています。
こうした「関係性」を扱う仕事の原点となった、幼い頃の記憶があります。よく母がテレビで昭和のドラマを見ていたのですが、ある時、男女が言うに言われぬ理由で別れていくシーンがありました。それを見た僕は、「お母さん、どうしてあの二人は話し合わないの?」と尋ねたんです。
相手を傷つけない配慮と言えばそれまでですが、「思っていることがあるのに、口に出さないのはなぜだろう」と思いました。すると母から、「あんたも大人になったらわかるよ」って言われたんです。ですが、大人になってもわからない(笑)。だから今、こうした関係性に関わる仕事をしているのだと思います。
妻とのコミュニケーションで自分の傾向に気づく
この仕事に就く前は、私立の中高一貫校で英語の教員をしていました。その背景もあるからか、僕は人一倍言葉に対する関心やこだわりが強いのです。言語オタクとまでは行きませんが、自分の中における「言葉」の比重が大きく、言葉を通じたコミュニケーションを何よりも大事にしています。
ただ、それゆえのダウンサイド(マイナス面)やシャドウ(影)もあるんです。 僕は、“言葉にされたものは、合意の上で現実として確定された”という風に受けとめる傾向があるんですね。「言葉」に重きをおいているからこそ、日々のやり取りの中で心が揺さぶられ、様々な感情が沸き起こることも少なくありません。
実は昨年、妻と立て続けにぶつかることがありました。僕ら夫婦はORSCセッションを毎月受け続けて17年になるのですが、その時もコーチングのセッションの中で、その話題になりました。僕が「スリランカへ行った時に大喧嘩したよね」と切り出すと、妻から「そうだっけ?」とすっかり忘れているみたいに言われたんです。その瞬間、「まじか! あんなに激しく言い合ったのに!」と内心仰天しました。
僕は言葉を用いて緻密に現実を構築していくタイプの人間なんですが、妻はそうではありません。最初は驚きましたが、妻がそうやってあっけらかんとしてくれているお陰で、日々の生活ではとても救われています。妻とのコミュニケーションの中で自分自身の傾向に気づくことは非常に多いです。

同じようなことは職場でも起こります。国内のファカルティ同士のミーティングでは、皆がディープ・デモクラシー(深層民主主義)*1をできる限り丁寧に扱おうとします。そのプロセスを大切にする一方で、「これ何の話をしているの?」ということもよく起きるんですね。話の脈絡がない時には、自分の中のCPUを使って情報を整理しているので、すごく疲れるんです。
*1 「正しく現実を表すためには、あらゆる人のあらゆる声が必要である」という考えを具体化したもの。プロセス指向心理学(プロセスワーク)の創始者であるアーノルド・ミンデルが提唱
もちろん、ファカルティとしてのトレーニングを受けているので耐性はありますし、実際にORSCを教えたり、セッションをおこなったりする時にはそのスイッチをオフにできるのですが、アジェンダがある時にあちこち話がいくと、ものすごく疲れます。そんな様子を見て、仲間のファカルティからはいじられたりしていますが(笑)、ここでもまた言葉を重んじる自分自身の傾向を再認識させられています。
“This is it!”と感じたORSC
コーチングを学び始めたのは2003年です。当時は、情熱を注いで来た教員人生に迷いが生じていた頃でした。大学のゼミが英語教育学だったこともあり、初めは理想に燃えて教育の場に飛び込んだんです。しかし、現場に入ってみると、学校の先生の仕事は専門の教科を教えるだけではありませんでした。自分の未熟さや教育現場ならではの慣習も相まって、すごく悩みました。学級崩壊も経験して、本当に力不足だったと思います。
学校には「俺について来い!」というタイプの先生もいますが、そういうキャラにはなれないというのもわかっていて。どうすれば良いのかわからず迷走して、まずは教員向けのカウンセリングの勉強を始めました。結構フィット感はあったのですが、「何かが違う」と思っている時に本屋でコーチングの本を見つけたんです。それをきっかけにパーソナルコーチングの世界へ足を踏み入れました。
さらに学びを進めていく中で、まだ日本でコースが開催されていないORSCのことを知りました。そこで休暇を利用して海外へ学びに行ったんです。ORSCを初めて受講した時には、“This is it !”(まさに知りたかったのはこれだ!)と思いました。ただ、すべて英語での受講だったので、すごく疲れたんです。その日の受講が終わると、ホテルの部屋へ直行して、ベッドに倒れこんでいました。普段使っていない脳の領域を使ったような、そんな疲れ方だったのを覚えています。
ORSCでは、関係性システムや感情を身体のジェスチャーを使って表現するアプローチがありますが、人によってはそうした表現にエッジ*2がある人もいます。僕は言葉を重視しているので意外だと思われるかもしれませんが、最初からそこに抵抗はなかったですね。ORSCの源流にあるプロセスワークが身体感覚を大切にしていると知っていたというのもありますが、高校時代からずっとドラムをやっていて、体感覚が根付いているからかもしれません。
*2 変化の妨げになる心理的障壁や境界

その後、ORSCの資格コース(現在の実践コース)が終了したタイミングでオーディションがあり、ファカルティになりました。振り返ると、それまでの7年間、学校で組織内コーチをしていたんです。同僚の教員をはじめ、事務職員、購買の店長さんなど、最終的には校内の教職員の約3分の1は僕のコーチングを受けてくれたと思います。当時の仕事は、半分が英語の授業、半分がコーチングという状態でした。
自由にコーチングをさせてくれた学校への感謝を胸に抱きつつも、仕事が少しずつルーティン化し始めた感覚とORSCのオーディションのタイミングが重なって、その約1年後に独立を決意し、学校を退職しました。

「自然と調和して生きる」ことへの憧れ
僕のワールドワーク*3のテーマは、「人も自然も全部つながって生きる」です。特に今、ORS@Natureというプログラムに情熱を注いでいます。自分の原体験をたどると、小学生の頃から釣りが好きでした。当時はアウトドアという意識はありませんでしたが、自然に一番近い体験だったのだと思います。自然は自分にとって大きな存在で、学生時代には、大学の図書館でアイヌやネイティブアメリカンの本を読んだりしていました。「自然と調和して生きる」ことに憧れがあったのだと思います。
*3 ORSCの知恵を使い、目の前に起きているさまざまな問題・課題に働きかけ、より良い関係性(Right Relationship)を共に作ろうとする取り組み
ORS@Natureを立ち上げるまでに、僕はいくつものディープな学びを重ねてきました。例えば、ネイティブアメリカンの自然と共に生きる智慧を学ぶワークショップ(WILD AND NATIVE ネイチャーサバイバルスクールやEarthmanshipなど)に参加したり、米国ユタ州のBoulder Outdoor Survival Schoolへ行って、真夏に寝袋もテントもない状態で砂漠を1週間歩く経験もしました。

ある時、本屋で『グランドファーザー』という本に偶然出会いました。それは米国ニュージャージー州のTracker Schoolの元になった本でした。「明日文明が滅んでも生き延びる術を教える」と謳う同スクールへ行き、森の中で1週間籠もり、自然に溶け込んで生きるスキルとスピリットの両方を学びました。
それらの体験の中で印象的だったことがありました。参加者が小グループで活動をした時に、自然とのつながりはあるのに、人との関係性にすごくチャレンジがある人がいたんです。これまでの経験を振り返ってみると、自然とはつながっているけれども、人との関係性が希薄だったり、人間関係に問題はないけれども、自然とのつながりが薄かったりする人がいると気づいて。「人も自然も全部つながって生きる」というスピリットがないのではないかと思いました。
そのスピリットを醸成するためには、「自然というところから関係性を感じることが必要だ」と思うようになり、同じファカルティの島崎湖さん(いずみん)と一緒にORS@Natureというプログラムを立ち上げました。僕は、生き物の頂点に人間がいるとは考えていません。昨今、熊の出没が社会問題になっています。もちろん現実的には対処が必要ですが、一方的に絶滅させたら解決するという話でもないはずです。自然だけでなくあらゆる生き物に対して、もっと全体から見る必要があると考えています。

関係性を取り戻すORS@Nature
よく周囲から「ORS@Natureに行くと何が得られるんですか?」と聞かれるんですが、言葉にこだわりがあるはずなのに、「良いことが起きるよ」としか言えなくて(笑)。ORS@Natureについては、完全に言語化できないもどかしさがあるんです。このプログラムを始めて5年目を迎えますが、今の段階でしっくり来ているのは、「関係性を取り戻す」という言葉です。
これは少し複雑な考え方かもしれませんが、日常生活を送っている中で、私たちはつながりを失っていると思わないですよね。普段ずっと頭の中でやるべきことを考えている時に、ORS@Natureの環境に身を置くと、自分が心の奥底で何を感じているかという「自分との関係性」を体感できると思います。
それだけではなく、他の人とのつながりや、さらに森でナイトウォークもするので、自然とのつながりも感じられると思います。その時に感じたものは、日常の生活に戻っても消えることはありません。昨年、お子さんが小さくて3日間参加するのはハードルが高いと話していた方が、「ちょっと無理したけれど、参加できて本当に良かったです」と話していました。自分のための時間を持つと、関係性を取り戻せるのだと思います。
ORS@Natureを共にリードしている島崎湖さん(いずみん)と出会って、気づけば22年が経ちました。実は出会って間もない頃、彼女から「私たち、将来一緒に何かやる感じがする」と言われたんです。当時は「そうなんだ」ぐらいにしか思っていなかったのですが、「本当に実現したね」と語り合っています。 僕たち2人のつながり(関係性)から生まれたプログラム「ORS@Nature」。その中で「自然も人も全部つながって生きる」感覚を体感し、自分自身のつながりを取り戻してもらえたら嬉しいです。

【編集後記】
母親から「大人になったらわかるよ」と言われた問いの答えを、大人になった今でも追い続けている佐藤さん(ふゆふゆ)。「言葉」を誰よりも大切にしながら、「完全に言語化できないもどかしさがある」と率直に話す姿に深く魅せられたインタビューでした。そんな佐藤さんが情熱を注いでいるORS@Natureには、きっと私たちがまだ見ぬ豊かな世界が広がっていることと思います。想像するだけでワクワクします。
(ORSCCのライター:大八木智子)