だじゃれは自分を救い、世界を救うORSCC鈴木英智佳さん
一般社団法人日本だじゃれ活用協会 代表理事/ ORSCC鈴木英智佳さん
目次
愛と勇気と遊び心で人の心をDelightする
現在、株式会社ラーニング・クリエイトの代表として、企業研修やORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)などを使った組織開発、LEGO®︎ SERIOUS PLAY®︎を使ったワークショップなどをおこなっています。
もう一つ肩書があるのですが、一般社団法人日本だじゃれ活用協会の代表理事をしています。ここではだじゃれを活用したイベントやセミナーなどを通じて、『だじゃれは世界を救う!』という活動をしています。2014年9月1 日に同協会を立ち上げ、今年10周年を迎えました。この「だじゃれで世界を救う」が、私のワールドワークプロジェクト*1です。
*1 ORSCの知恵を使い、目の前に起きているさまざまな問題・課題に働きかけ、より良い関係性(Right Relationship)を共に作ろうとする取り組み
初めから「だじゃれありき」だったわけではありません。2011年に独立してラーニング・クリエイトを設立したのですが、初めは食べるのに必死で、仕事を選ばずにやっていました。少しずつ落ち着いてくると、「自分は何のために独立したんだろう?」「本来、自分のやりたいこと、自分にしかできないことは何だろう?」と思い始めたんです。
そんなタイミングで、CTIが主催する「Co-Active®︎*2リーダーシップ・プログラム」や榎本英剛さん主催の「天職創造セミナー」に参加して自己探求を続けていくうちに、自分の人生の目的が見えてきました。「愛と勇気と遊び心で人の心をDelightする」。Delightするというのは、人の心に火をつける、元気づけるという意味です。これが自分のやりたいことだと思った時に、自分らしくありながら世の中にインパクトを与える表現方法として、「だじゃれがぴったり」だと思いました。
*2 Co-Active®︎は、株式会社ウエイクアップ CTI ジャパンの登録商標です。
より詳しくお知りになりたい方は、CTI ジャパンのホームページをご覧ください。
気持ちにフタをされて、自分を表現できなかった幼少期
この「愛と勇気と遊び心で人の心をDelightする」という言葉が出てきた背景には、幼少期の頃の体験があります。実は、幼少期から中学生くらいまでは気持ちにフタをされて、自分をうまく表現することができませんでした。
1つは転校の影響です。父親の仕事の関係で幼稚園の時にアメリカへ1年行き、小学1年生の夏休み前日くらいに日本に戻ってきました。なので小学校の入学式には出ていないんです。そこからまた2年生、5年生になる時に学校が変わり、計3校の小学校に通うことになりました。
小学1年生の時はすごく優しい女性の先生だったのですが、2年生で都会の小学校へ引っ越すと、担任がおじいちゃん先生になりました。その先生がすごく厳しくて。「授業中にトイレに行きたい」と言っただけで、1メートル位の木の棒で頭を叩かれたことがあって、カルチャーショックを受けました。その時から「空気を読まないといけない」と思い、自分の気持ちにフタをするようになりました。
もう1つは家庭環境です。2つ年上の兄がいるのですが、兄は小さい時から運動神経がものすごく良くて、どちらかというと社交的なタイプ。それに比べて自分は控えめでおとなしくモジモジとしていたので、「とろい・グズ・のろま」などと頻繁に言われていました。喧嘩になるといつもボコボコにされて泣かされる、そんな幼少期でした。いま思うと次男というのもあって、親に目をかけられていたので、兄からしたら羨ましかったのかもしれません。
その親からは「良い学校に行って、良い大学に入って、良い会社に入れば人生幸せなんだ」という価値観を押し付けられました。
今でも覚えているのが、小学校の卒業アルバムで「将来の夢」に「サラリーマン」と書いていたこと(笑)。本当は「昆虫博士」や「宇宙飛行士」という夢もあったのですが、親からは「でもね、サラリーマンが一番よ」と言われ続けて、小学生にしてすでに夢を失っている、そんな幼少期でした。中学生までは背も低くて、何かにつけてコンプレックスの塊。とにかく自己肯定感が低かったですね。
「なめくじ」から自由に飛ぶ「トンボ」へ
そんな僕に、高校に入ってから転機が訪れました。東京都の交換留学プログラムに自ら手を挙げて、ジャカルタ(インドネシア)に2週間の短期留学をしたんです。アメリカに1年いたこともあって、海外への憧れがありました。親からは「ヒデがこんなことにチャレンジするとは思わなかった」と驚かれました。
もう1つ、僕が通っていた高校では、文化祭の時に全クラスが演劇をするのが伝統でした。その時に『マイ・フェア・レディ』の主役の一人であるヒギンズ博士――映画内ではオードリー・ヘップバーンの相手役――をやることになったんです。それまでの自分を考えると絶対にありえないチャレンジで、自分が変わっていく大きなきっかけとなりました。
ORSCではチームや組織を生き物に喩えることがありますが、中学までの自分とそれ以降の自分を生き物に喩えるとしたら、「なめくじ」から「トンボ」です。僕の中でなめくじは弱々しいイメージ。トンボは自由に空を飛び回る、力強い生き物です。
小さい頃、昆虫を飼うのがすごく好きだったんですが、その中でもトンボは憧れで。トンボの中で一番カッコいいと思うのは鮮やかな緑と青が特徴の「ギンヤンマ」です。昨年の夏、友人と三重に遊びに行った時に憧れのギンヤンマを初めて捕まえることができて、大興奮でした!
昆虫って、幼虫から成虫になる時に大きく姿を変えますよね。トンボはヤゴから羽化して成虫になります。いま思うと、昔、昆虫を飼うのが好きだったのは、変化への憧れだったのかもしれません。「変わりたい」「変わらなきゃ」という思いが潜在的に自分の中にあったのだと思います。
ORSCはツールが色々あるのが魅力的
ORSCを学び始めたのは2016年。実践コースで資格を取ったのが2020年です。周りにCTIやORSCでコーチングを学んだ人たちが多くいたのですが、僕自身はパーソナルコーチングには気持ちが向かず、どちらかというと自分自身の変容に意識が向いていました。そうした中、「HIDEちゃんはORSCの方が向いているかもね」と複数の友人に言われたんです。
確かに幼少期の経験から、その場で何を言って良いのか・悪いのか? 自分は周りからどのように見られているのか? といったように、「場の空気」にとても敏感でした。「人と人との関係性」には常にアンテナが立ち続けていたのもあって、「ORSCは自分に合っているかもしれない」と直感的に思いました。
実際に学んでみて、ORSCには見えない関係性を可視化したり、同じ物事をそれぞれがどう捉えているかを体感的に表現するワークなどがあって、すごく面白いと思いました。また、研修講師として場に立つことも多いので、ORSCの様々なツールを武器として使えることにもとても魅力を感じました。
だじゃれの神様から言葉が降りて来る
ORSCを受講した中で印象に残っているのは、当時ファカルティだった森川有理さん(以下、ゆりちゃん)が、応用コースのお昼休み明けのオープニングで「シリア内戦」の話をした時のことです。
戦争の話なので場が少し重たくなりかけた時に、ゆりちゃんがふと「だじゃれで紛争って止めることができるのかしらね?」と、優しくでも少し助けを求めるような表情で急に僕に問いかけて来たんです。瞬間的に、僕は「いやぁ、それはちょっとシリアだけに“シリアス”な話ですね」って返したんです。そしたら、ゆりちゃんが思いっきり泣き笑いし出しちゃって(笑)。それまでのその場の重たかった空気が一変、パッと霧が晴れたように一気に明るくなりました。
日本だじゃれ活用協会では、スローガンである『だじゃれは世界を救う!』のメインビジュアルとして、虹の絵を使っています。この絵は、だじゃれを使って、僕が創り出したい世界観を知り合いのデザイナーの方に表現してもらったものです。
世の中には、感情的に雨が降ったような状況っていっぱいあると思うんです。気持ちが落ち込んだり、関係性がギクシャクしたり、重たい雰囲気になったり。そんな時にだじゃれがポッと入ることによって、一瞬かもしれないけれども、パッと虹がかかって気分が晴れやかになる、そんな風にだじゃれを活用していきたいと思っているんです。
だじゃれを言うときは過去に口にしたことのあるストックの中から選び出すこともありますが、その場でパッと言葉が降りて来ることも多いんです。だじゃれの神様が僕を通じて、「世の中に平和をもたらしなさい」って言っているような感じがしていて。
先ほどの「シリアだけに“シリアス”な話ですね」は、まさにそれが体現された、名場面の一つですね(笑)。
だじゃれで一番救われているのは自分
初めにお話しした通り、「だじゃれで世界を救う」が私のワールドワークプロジェクトです。もう少し掘り下げると、「その人らしさを自由に表現できることの支援」と言っても良いかもしれません。本来人は誰しも「その人らしさ」やその人だけが持っている「持ち味」があるはずで、それを自由に表現できるようなサポートをするのが、私のやりたいことです。
この活動を10年間続けてきて、ここまで3つくらいのフェーズがあったなと思い始めています。
まず一番初めにくるのは、だじゃれは周囲にゆとりやうるおいをもたらすということです。笑いがあることで、その場の心理的安全性が高まります。そして、そうした状態があることで、「その人らしさ」が発揮されやすくなるのではないかと思っています。これが第1のフェーズです。
第2のフェーズは、自分自身の解放です。最初の方でも触れましたが、気持ちにフタをされて自分を表現できなかった僕が、いま「自分史上最幸」と思える充実した時間を過ごせているのは間違いなく、だじゃれのおかげです。だじゃれの活動を始めてからの自分とそれまでの自分を考えると、紀元前・紀元後くらいの違いがあります。
そう考えると『だじゃれは世界を救う!』と言っていますが、一番救われているのは自分自身だとも思っているんです。この活動をしていなかったら、たぶん何の変哲もない、真面目でつまらない平凡な人間であり、人生だったと思います(笑)。
そして第3フェーズは、僕のワールドワークである「だじゃれで世界を救う」が、「本当の自分らしく、あるがままでいい」という一つのモデルになったら良いなという思いがあります。「だじゃれでそこまでできるんだったら、自分もがんばってみようかな」と誰かに勇気を与えたり、迷っている人の背中を押すきっかけになれたら嬉しく思います。
だじゃれは最強のメタスキル
だじゃれの活動を始めた頃は、研修講師やORSCのワークショップをする時には「鈴木英智佳」と漢字で名乗り、だじゃれ活用協会の代表理事として活動する時には「鈴木ひでちか」と平仮名で名乗って、すみ分けをしていました。ですが、最近は垣根をつくらず、意図的に両者を統合するようにしています。
ドラゴンボールの「フュージョン」ってわかりますか? 2人の登場人物が合体して、とんでもなくパワーアップするんです。だじゃれもやっている研修講師であり、研修設計やORSCの知恵をだじゃれの活動に活かしているからこそ、ここまで来れたのだと思います。もちろん、そこからたくさんの出会いやご縁にも恵まれてきました。これからも研修“講師”だけでなく、ORSCもLEGO®︎ SERIOUS PLAY®︎も、だじゃれも全てのリソースをフル活用して、“公私”共に充実させていきたいなと思っています。
最後に伝えたいのは、「だじゃれは最強のメタスキル」だということです。メタスキルとは、場に関わる態度、哲学、スタンスのことですが、コーチはメタスキルを使って、その場に必要な雰囲気を意図的に作っていきます。
だじゃれの「遊び心」や「軽やかさ」は人間関係を円滑にし、場の雰囲気を和らげ、心に「ゆとり」と「潤い」、世の中に「笑顔」と「希望」をもたらします。だじゃれが広がれば、世界は救われる。これからも世界に平和をもたらせるように、だじゃれを「平和のワンピース」として自由自在に活用していきたいと思います!
▼一般社団法人日本だじゃれ活用協会
https://www.dajare-zukai.jp/how
【編集後記】幼少期の頃の痛みがありながら、トンボのように「自由に飛びたい」と願い、大きく変容された鈴木英智佳さん。「昔、昆虫を飼うのが好きだったのは、変化への憧れだった」という話をしてくれた時には涙が出そうになりました。「だじゃれは最強のメタスキル」を合言葉に、世界に平和をもたらしてください!(ORSCCのライター:大八木智子)