ログラスの急成長を支える「正々堂々と議論する」対話の場作り
会社経営において「正々堂々と議論し、本音でぶつかること」は、組織が成果を出すために不可欠な要素です。しかし、頭では分かっていても、それを組織内で実現し続けることは容易ではありません。変化が激しいこの社会で、人と人との関係性を扱うシステムコーチング®️(以下システムコーチング)は、その難題を解決する強力な手段となり得ます。
周囲への説明が難しいシステムコーチングを、有資格者は企業内でどのように実践し、経営にインパクトを与えているのでしょうか。これからコーチングを学ぼうとしている方や、すでに学んだものの実践の壁を感じている方の一助となるよう、CRR Global Japan ファカルティの三橋 新が、実践者のリアルな経験を聞きに行きました。
今回お話を伺ったのは、株式会社ログラスでソフトウェアエンジニアとして活躍し、現在はAI駆動開発を推進する松岡 幸一郎さんです。松岡さんは社員数30名のスタートアップ期から組織にシステムコーチングを持ち込み、300名を超える規模へと急拡大する今に至るまで、対話の場を作り続けてきました。組織の課題を可視化するAIアンケートの発明や、システムコーチングが会社のバリューを体現する「組織課題を可視化し、正々堂々と議論する土台をつくる手段」として全社表彰されるまでの軌跡について紐解きます。
【プロフィール】
話し手:松岡 幸一郎(まつおか・こういちろう) 株式会社ログラス ソフトウェアエンジニア。 社員数7名の頃から参画し、現在は主にAI駆動開発の推進を担当。サブ業務として継続的に今の組織でシステムコーチングを実践し、そして「良いもの」を広めていくことを自らのワールドワーク(人生をかけた仕事)と位置づけ、活動を続けている。
聞き手:三橋 新(みつはし・あらた) CRR Global Japan ファカルティ/System Inspired Partner。 自身も企業において組織開発やシステムコーチングを実践していると同時に、実践プロフェッショナルコースのメンターコーチングなどを担当している。
目次
社員数30名規模からのスタート。アジャイルな組織カルチャーとの共鳴
松岡さんがログラスに参画したのは、まだ社員がわずか7名の頃。その後、組織が30名規模になった約4年前に当時のコーチからの勧めでシステムコーチングを学び始め、社内への導入をスタートさせました。企業内でシステムコーチングを広める道のりは、どのような始まりだったのでしょうか。
松岡:「私のスタイルとして得意なのが、自分が『良い』と思ったものを広めることなんです。過去のドメイン駆動設計(DDD)*1と同じように、システムコーチングを実践してみて、また自分が受けてみて本当に良かったからこそ、純粋に広めたいと思いました」
こうして、松岡さん自身の良い体験を原動力に導入への挑戦が始まります。とはいえ、目に見えにくい関係性を扱うシステムコーチングを組織に広めていく上で、ハードルはなかったのでしょうか。

松岡:「ログラスには初期から全社で振り返りをするアジャイル的な文化があり、コーチングのような話し合いの場への抵抗感が少なかったんです。さらに、創業者の2人も外部のシステムコーチングを受けていたため、その理解と後押しもあって少しずつ社内に広がっていきました」
「良いものを広めたい」という松岡さんのシンプルな情熱と、オープンに振り返りを行うログラスのカルチャーが見事にマッチし、組織の初期段階から対話の土壌が耕されていたことが窺えます。
見えない課題を「ピン留め」する。AIを用いたアンケートの発明
順調に見える実践の道のりですが、見えない関係性の課題に対してコンセンサスを取ることは、企業内実践者にとって常に大きな壁です。この壁を突破するため、松岡さんはAI開発推進者ならではの画期的な「発明」を生み出しました。
松岡:「ジャック・ギブの『4つの懸念(組織信頼構築理論)』モデルをベースにアンケート項目と、AIを使って分析する仕組みを作りました。この理論では、チームの信頼構築には『受容』『情報と感情の流通』『目標』『統合』という4つの段階があり、基礎となる第1段階から順番に満たしていく必要があるとされています」

松岡:「私が特に注目したのは第2段階の『感情』です。チームの進め方に違和感があったとき、それを伝えられるか。ネガティブな感情も口に出せるか。ビジネスの場では『感情は自分で制御してこそ一人前』という考え方が根強いように思います。そんななかで、感情こそが組織として成果を出すうえで欠かせないものとして明確に位置づけられている。そこが面白いと思いましたし、自分の実感とも重なりました実際にアンケートをとって分析すると『思っていることを言えない』という感情の滞りの項目が真っ赤なデータとして浮き彫りになることがあります。そうなれば『ここにチームの課題がありますね』とピン留めできる。このような分析結果は課題認識を揃え、コーチングセッションを実施するハードルを下げる大きな助けになっています。。」
見えにくい関係性の課題を、理論と最新のAI技術を用いて可視化する。このアプローチによってコンセンサス形成のハードルを下げたのは、エンジニアである松岡さんらしい見事な「発明」と言えます。
システムコーチングは「成果を出すため」の場作り
松岡さんの地道な実践は、やがて会社の公式な評価へと繋がります。昨年の半期アワードにおいて、ログラスのバリュー「Clean Fight(正々堂々と、闘う。)」を体現したとして、全社表彰を受けたのです。
松岡:「あるセッションの後で『システムコーチングって、Clean Fightの場作りだよね』と言ってくれた人がいたんです。裏でこそこそ言うのではなく、腹を割って話す。でもそれって人間にとって実はすごく難しいから、再現性のある手段としてシステムコーチングがあるのだと」

松岡::「会社から公式に評価してもらえて、今まで草の根で細々と続けてきたことは間違いじゃなかった、と思えて、とても嬉しかったです」
「Clean Fight(正々堂々と、闘う。)」はログラスのバリューですが、これは単に本音をぶつけ合うことではなく、事業成果や顧客価値に向かうために、必要な衝突を避けず建設的に向き合う姿勢を表しています。
松岡さんが提供し続けた「腹を割って話せる場」は、まさに会社経営にとって重要な課題を解決し、成果を出すための土台として機能したのです。
「良いものを広めたい」。次なるステージとコミュニティへの思い
組織がさらなるスケールを迎える中、松岡さんの取り組みも次のフェーズに入っています。個人の現場発のボトムアップから、HRBPなど組織の機能と手を組み、会社が組織課題を解決するための手段として定着させていく段階へ。また、インドのオフショアチームとの英語でのセッションなど、新たな領域への挑戦も始まっています。
松岡:「この4年間で組織の人数は10倍(300名規模)になりました。社内で共に実践し相談し合ってきた仲間の大野さんと私の2人だけでは、全社をカバーすることはできません」

松岡:「だからこそ今が、システムコーチングを会社が組織の課題を効果的に解決できる手段として定着させられるか、その分水嶺だと思っています。
ちょうど社内にHRBPが立ち上がったタイミングでもあるので、そういう人たちと一緒に、組織の課題にアプローチする会社の手段としてしっかり根づかせていきたいんです。コンフリクトを解決するための道具、というだけではなくて、組織の課題そのものに効いていく。組織には、制度やプロセスみたいに目に見える部分と、そこに流れている関係性や価値観みたいに目に見えない部分がありますよね。システムコーチングはその両方に、なかでも後者の内面のほうに働きかけられるのが強みで、そこをうまく組織として活かせるようになりたい。
また、社外に向けても、今年はアジャイルとORSCを掛け合わせたコミュニティを作り、実践者が迷いを相談したり知見を共有したりできる場をつくりたいと思っています。」
「良いものを広めたい」というシンプルな情熱から始まった活動は、数々の発明を生み出し、会社を前に進める強力な原動力となっています。そして今、松岡さんの目は社内に留まらず、同じように孤独に奮闘する社外の実践者たちへと向けられています。
【編集後記】
CRR Global Japanが今年のテーマに掲げる「Systems Inspired」。ログラスの物語は、まさにこの言葉の体現です。一人の実践者の「良いものを広めたい」という純粋な願いと行動が、やがて組織全体を動かす大きな影響力へと変わっていく過程を見せてくれました。
しかし、その道のりは決して一人だけで成し遂げられたものではありません。そこには、システムコーチングの価値を信じて後押しした経営陣の深い理解や、共に実践する仲間の存在、そして何より、セッションを受け「ここはClean Fightの場だ」と価値を見出し、言葉にしてくれたメンバーたちの声がありました。
周囲との関係性が相互に影響を与え合い、共鳴したからこそ、システムに新たな知性が立ち上がったのだと、お話を伺って強く感じました。
文・写真:三橋 新(CRR Global Japan ファカルティ)
【参考・注記】
※「システムコーチング」は、CRR Global Japan合同会社の登録商標です。
*1 ドメイン駆動設計(DDD):システムが解決すべき業務領域(ドメイン)の専門知識やビジネスルールを、直接ソフトウェアの設計やコードに落とし込む手法