プリティ・ウーマン /My Favorites Movie

My Favorites Vol.3は、ちえみんこと櫻井千恵美から、「プリティ・ウーマン」をご紹介します。

「場の感情」から映画を紐解く

大ヒット映画「プリティ・ウーマン」(Garry Marshall, Pretty Woman, 1990)の好きなシーンから、システムコーチ特有の意識の向け方、「場の感情」(=主に関係性が創り出している空気感や雰囲気)にスポットライトを当てると関係性にどのように影響しているのかを紐付けて書いてみたいと思います。

この映画は私にとって初めて自分で買った作品であり(当時はVHSビデオでしたが。時代が…)、振り返ると多くの人がチームで関わる制作現場や表には出ていないけれど、裏側から世界観を創り出すプロセスに興味を持つ、今の活動につながる起源となった作品の1つとしてご紹介します。

●映画の概要

「プリティ・ウーマン」
監督:ゲーリ・マーシャル
主演:リチャード・ギア/ジュリア・ロバーツ
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07M65ZK2D/ref=atv_dp_share_cu_r

詳しくは他に譲るとして、米国L.A. ビバリーヒルズを舞台に、成功したビジネスマン(リチャード・ギア)と娼婦(ジュリア・ロバーツ)の偶然の出会いから始まる、現代版シンデレラストーリーです。

●My Favorites’ Point

この映画のシーンの多くは高級ホテル現ビバリー・ウィルシャー・フォーシーズンズホテルが舞台となっています。王道のシンデレラストーリーらしく、華やかで象徴的なシーンはいくつかありますが、私は俳優ヘクター・エリゾンド演じるホテル支配人が出演している何気ないシーンが大好きです。主役の二人ではなく、ホテル支配人が創り出す関係性とその変化、そしてその世界観が絶妙だからです。そこで支配人のシーンを中心に「場の感情」にスポットライトを当てながらご紹介します。

まずは支配人が初めて登場するシーン。ホテルに朝出勤し、スタッフ全員に声を掛けていくシーンがあります。彼が入ってくると、前夜とは違い少しホテル内の「場の感情」が引き締まります。支配人は目の前のスタッフだけではなく、遠くで作業しているスタッフにも名前を呼びながら挨拶をします。スタッフは手を振りながら親しげに答えますが、柔らかさと少し引き締まった「場の感情」が全体に広がっていく、たった15秒のシーンです。この中に、映画の中での支配人のスタッフへの影響力の強さと距離感が現れています。

次に一見で娼婦とわかる身なりのジュリア・ロバーツ演じるヴィヴィアンに支配人が事情を聞くシーンでは、支配人個人の価値観での評価判断は無く会話が進み、そこには透明性のある「場の感情」が現れています。支配人はリチャード・ギア演じるエドワードについてヴィヴィアンに伝えます。ホテルにとって特別なゲストであり、特別なゲストは我々の友人である。だからこそ今回だけ特別にヴィヴィアンの滞在を認めると明確に伝えますが、同時にホテル内での服装や1回限りであることも合意します。

娼婦を蔑むでもなく、超お金持ちの特別ゲストだからと我慢するでもなく、ホテルとして何が必要で、どこまでは許し、どこまでは許さないのか。また、何を求めるのか、という境界線を明らかにしたことで、透明性のある「場の感情」があり、合意せざるを得ない結果とその後ヴィヴィアンが支配人にサポートを求め、彼女自身が変化していく始まりの関係性にもつながっています。

私が最も興味深いと思うシーンは、高級ブティックを見た目で追い出され必要な洋服が買えなかったヴィヴィアンのために支配人が紹介した女性店員のブリジットと出会うシーンです。ブリジットも支配人と同じく、ヴィヴィアンを評価判断無く、お金持ちの男性にはよくある事だとノーマライズ(一般化)しながら、販売員としてのプロフェッショナルな安心感とリラックス出来る柔らかな「場の感情」を創り出しています。

ヴィヴィアンが「あなたはとても親切な人だと(支配人から)聞いている」とブリジットに伝えた際に「彼(支配人)の方が…」という会話からも、支配人とブリジットの互いを尊敬し合っている温かな「場の感情」が現れ、ヴィヴィアンが支配人とその先につながっているブリジットへの信頼を高める関係性の変化が見えてきます。

一方、ホテルと対極な「場の感情」は、エドワードのビジネスシーンです。恐れや不安からの蔑みといかにライバルを引きずり下ろし、自分たちを正当化させようとする会議では、固く、硬直した息の詰まる「場の感情」が続きます。会議出席メンバーの関係性も「場の感情」と同期していることが現れています。ここまで極端ではないかも知れませんが、ビジネスの現場で似たような体験をした方も多いのではないでしょうか。

映画のクライマックスに続くチェックアウトのシーンでは、会話の中で「場の感情」が大きく変化し、支配人とエドワードの二人の関係性の変化も見えてきます。宝石の返却を依頼された支配人は、エドワードがヴィヴィアンへの思いに躊躇している様子を感じ、「美しい宝石を手放すのは難しい」と伝えると、二人の間のちょっとした緊張が緩み、柔らかな「場の感情」へと変化します。

さらに前日、契約を終えホテルを出るヴィヴィアンをリムジンで送ったことを話すと、二人がつながったような「場の感情」へと変化します。そして、エドワードが今まで一度も呼んだことがない支配人の名前を「ありがとう、トンプソン」と呼ぶシーンは、上顧客と支配人という関係性から、支配人が話していたホテルにとっての大切な友人への関係性に変化した瞬間にも見えます。

いかがでしょうか。システムコーチング独自の「場の感情」にスポットライトを当てると、もしかしたら、今まで見た映画も少し違ったストーリーが見えてくるかも知れません。そして、映画の世界の話だけではなく、私たちの現実世界でも同様に、人の関係性が創り出している「場の感情」に少し意識を向けるだけで、そこに見えていなかったものが見えてきます。