【学習レポート】オンライン学習会「ICF チームコーチングコンピテンシーを読み解く」
2020年、ICF(国際コーチング連盟)が全世界に対してチームコーチングのコンピテンシーを発表しました(注1)。コーチングのコンピテンシーとは、コーチに必要とされる能力、資質、行動特性のことです。
今回の発表は、個人だけでなく、チーム・組織にもコーチングを通じて深く働きかけていく時代が来た、というコーチングの進化の象徴とも言えます。
CRR Global Japanでは、チームコーチングの先駆けとも言えるシステムコーチング(ORSC)を通じてチームや組織に関わっている実践家にいち早くお知らせしたいと、ICF JAPANの正式な翻訳がリリースされる前にオリジナル和訳を作成しました。システムコーチングの資格であるORSCCの保持者と実践コースに参加中の方を対象とした回と、現在基礎コース、応用コースに参加中の方を中心とした回の2回に分けて、ICFチームコンピテンシーを読み解く「ORSC Labo Studying」オンライン学習会を実施。参加者特典としてその和訳を提供させて頂きました。
学習会ではまず、CRR Global Japanのファカルティから、チームコーチングのコンピテンシーが出た背景について解説があった後、オリジナル和訳を基に対話をし、コンピテンシーの理解を深めたり、ORSCの実践とどうつながるかなどを語り合ったりしました。
ここでは、チームコーチングコンピテンシーには何が書かれているのか、また学習会ではどのような対話がおこなわれたのかを、ORSCC保持者と実践コースに参加中の方を対象とした回の一部をご紹介します。
(注1)ICF チームコーチングのコンピテンシー(英語版)
Team Coaching Competencies
目次
チームコーチングとチーム開発に関する他のモダリティとの違いが明確に
初めに「ICFがチームコーチングのコンピテンシーを出したというのを聞いて、どう思いますか?」という問いかけに、「時代が変わってきた」「システムコーチングを社内に広めるために、こうした公式の情報があればあるほど説得力が増すので嬉しい」といった意見が出ました。その一方で、「(チームコーチングの)重要性が増してニーズが高まっているが、うまく運用できていない実態があるのではないか」といった声も挙がりました。
今回の発表で特筆すべきことの一つは、チームコーチングがチーム開発に関する他のモダリティ(手法)、例えば、チームビルディングやチームファシリテーション、チームコンサルティングなどとどう違うのかが明確になったことです。それによって、世界中のコーチたちが同じ基準を持つことになったことは、非常に意義深いことだと言えます。
表:「チーム開発に関するモダリティ」
チーム開発(Team Development) | ||||||
長期のチーム、複数の多くのモダリティ、多数のトピック | ||||||
チームビルディング | チームトレーニング | チームコンサルティング | チームメンタリング | チームファシリテーション | チームコーチング | |
時間枠 | 短期、1−5日 | 短期、1−5日 | 短期~長期 | 単発、長期 | 短期、1−5日 | 長期 数ヶ月 |
プロセス | 演習 | 教材カリキュラムを通じてチームと協力 | コンサルタントが専門知識を共有 | メンターの共有 | 対話をファシリテート | チームとコーチのパートナーシップ |
成長領域 | 関係性強化 | 新しい知識とスキル | 洞察を得る | 新しい知識 | 明快さ | ゴールの達成:チームの持続可能性 |
チームダイナミクス 紛争解決 | 最小限 | 最小限 | 最小限、アドバイス | 最小限 | 最小限 | 不可欠 |
専門性:プロセスをリードするのは誰か? | インストラクター | トレーナー | コンサルタント | メンター | ファシリテーターとチーム | チーム |
一番コーチの立ち位置や立ち続ける筋力を試される「コンピテンシー1」
チームコーチングコンピテンシーは、パーソナルコーチングのコンピテンシー(注2)が土台となっていて、そこにプラスされる形で書かれています。
(注2)ICFコア・コンピテンシー
https://icfjapan.com/competency
チームコーチングコンピテンシーは以下の8つです。
コンピテンシー1 | 倫理に基づいた行動をしていることを示している |
コンピテンシー2 | コーチングマインドを体現している |
コンピテンシー3 | 合意の確立と維持 |
コンピテンシー4 | 信頼と安全を育む |
コンピテンシー5 | 今ここにあり続ける |
コンピテンシー6 | 積極的傾聴 |
コンピテンシー7 | 気づきを引き起こす |
コンピテンシー8 | クライアントの成長を促進する |
まず話題に上ったのが、コンピテンシー1の1つ目に書かれている「クライアントチームを1つの存在と見立ててコーチングする」という一文です。システムコーチングでは、システムがクライアント、つまり複数の人たちを1つの存在として見立て、クライアントとして関わると伝えていますが、まさにそれがいの一番に書かれています。
その一文を読んで「なぜこれが倫理に入るのか」という違和感に対し、「パーソナルコーチングは1対1なのでコーチがクライアントを依怙贔屓することはないけれども、システムコーチングの場合は1対複数なので、そうなってしまう可能性を考えて倫理に入っているのでは」という声が出ました。ファカルティからは、「現場にはスポンサーがいたり、人事がいたり。チームの中にもリーダーがいたり、役職の高い人がいたり、現場の人がいたりと立場が違う中でシステムとして関わるという、一番コーチの立ち位置や立ち続ける筋力を試されるところでもある。重いコンピテンシーだと思う」との説明がありました。
中立を保つためにスーパービジョンの可能性を示唆する「コンピテンシー2」
次に注目が集まったのが、コンピテンシー2に書かれている「必要に応じて、支援や育成、説明責任のためのコーチング・スーパービジョンに携わる」という文章です。「資格を取る実践コース中のスーパービジョンはあるが、実際にクライアントさんとシステムコーチングをする時にスーパーバイザーを付けるのは、果たしてどうなのか。スーパーバイザーではなく、コーコーチ(共同コーチ)でも良いのではないか」という意見や、「スーパーバイザーがついていると、まだ未熟だと見られる可能性があるのでは」という反応も見られました。
さらに、「チームコーチがチームダイナミクスに巻き込まれ、取り組むべき問題に気づかないことは容易に起こり得る。そのため、チームコーチはコーチングスーパーバイザーと一緒に活動すべきである」という一文は、どう捉えたら良いかという戸惑いの声も聞かれました。
それに対してファカルティからは、「例えば、プロのカウンセラーの人は自分自身がニュートラルでいるために自分自身にスーパーバイザーを付けている。無自覚にに誰かに肩入れするのではなく、自覚的に中立を保つために活用するという事例がある。プロフェッショナルの育成という意味でその影響を受けた新しいコンピテンシーではないかと。スーパービジョンを味方にしていただく、そんな可能性もあると思う」という話がありました。
「コンピテンシー8」で「対話および振り返りは不可欠」と明言するのはなぜか?
ぐっと対話が深まったのは、コンピテンシー8に書かれている「チームメンバー全員の知識や技能を最大限活用するために、対話および振り返りは不可欠だ」という一文です。「対話および振り返りが不可欠というのはその通りだけれども、わざわざ言うのは何だろう?」という疑問から、「ワークの後の振り返りなのか、セッションとセッションの間に行うチームの中での自律的な振り返りを促進することなのか、コーチングを完了していく時に振り返り、コーチはフェードして(次第に消えて)、チームを自律的に送り出すことなのか」などの議論が出ていました。
それに対して「ここまでコンピテンシーを読んで、皆さんと対話して、クライアントの自律を促進するために、これまでのコンピテンシーがあるように感じた」という声も聴かれました。
「コンピテンシー6」で、自分のバイアスがかかることを自覚する
1から8までのチームコーチングコンピテンシーについて探究した後は、実際にシステムコーチングを行うシーンをイメージしながら、コンピテンシーと結びつけて考えてみる対話が行われました。5つのグループに分かれ、それぞれが興味あるテーマについて話しました。
非常に興味深かったのは、コンピテンシー6「積極的傾聴」について話したグループの中から聴かれた意見です。「(システムの中にある)すべての声を聴ききるのは到底無理なので、できる限りの声を聴くようにする態度が大事。どんなに上達して聴けるようになったとしても、自分のバイアスは絶対にかかってしまうところがあるので、謙虚にならないと」と、実践コースに参加している人から自戒の念を込めた声が聴かれました。
最後のチェックアウトでは、このICFチームコンピテンシーを手にして、どのような可能性を感じているか、どんなチャレンジをしていきたいか、という問いが投げかけられました。それに対して「コンピテンシー=コーチとして自覚的であるためのスポットライト」「他のモダリティの活用、組み合わせも含めて、引き続きスポーツチームの強化に活かしていきたい」など、それぞれの考えや想いが込められた言葉が聴かれました。
【編集後記】
チームコーチングコンピテンシーを見ながら「これはどういう意味?」「これがコンピテンシーに入るの?」と熱い対話が行われた2時間。参加者がシステムコーチングの実践家だからこそ出てくる声もあり、学び多き時間でした。こうした会は、コーチとしての自分を振り返る機会にもなります。ぜひ、また違うテーマで「ORSC Labo Studying」を開催して欲しいです。
(ORSCCのライター:大八木智子)
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