人々が引きつけられる「ティール組織」をシステムコーチたちが紐解く(前編)

「ティール組織とは」
日本の第一人者:嘉村賢州さんから解説

「ティールが正解という訳ではないけれど、
 仲間たちとまだ見たことのない風景に行きたければティール」

ティール組織 × システムコーチング  から語られる次世代組織

はじめに 

2018年1月の発行以来、組織に関わる人たちの間で話題になっている『ティール組織』、世界17カ国語に訳され、累計40万部、日本では7万部(2019年7月現在)売れています。実際本を手に取ると分厚い、読んでみると難解。でも、今、組織に必要なヒントが書かれていることは分かる。この「難解さ」は、実践しよう、変えていこうとする時にぶつかる課題につながっていると思われます。本の中には、日々組織の変容に立ちあうシステムコーチとして共感するポイントが散見されます。

CRR Global Japanでは『ティール組織』の解説者、嘉村賢州さんをゲストに迎え、公開勉強会を開催しました。嘉村さんは、現在、東京工業大学シーダーシップ研究院で特任准教授をなさっていますが、場づくり、まちづくりの専門家でもあり、現場で人の間に起きる軋轢をシナジーに変えるお仕事を実践し模索する中で「ティール」に出会い、この先10年、20年を照らす組織論であると日本に紹介するために尽力されている方です。

主催者とティール組織との出会いは2015年、邦訳本発行以前に気になる「組織論」として出会ったことがはじまりです。その後、嘉村さんとの出会いを経て、今回ご本人をゲストに、これほど多くの人を引きつける「ティールってどんな組織だろう」「何に役立つ考え方だろう」「どのように活用していけるだろう」を学ぼうと開催に至りました。今回の対談は、嘉村さん、CRR:東、佐藤、島崎の4名で行いました。以下、勉強会で語られた内容をレポートです。

CRR Global Japan  土屋・原田

嘉村賢州さん(東京工業大学シーダーシップ研究院 特任准教授)の解説から

『ティール組織』は違和感の中で探求し見つけたことが書かれた本

『ティール組織』の著者フレデリック・ラルー氏は 米国在住のベルギー人、現在は家族を第一にエコビレッジに暮らしていますが、元はマッキンゼーのコンサルタントでエグゼクティブコーチです。その彼が経営者と仕事する中で、どんなにビジョナリーで情熱的で優れた経営者であっても、彼を訪ねてくる頃には「べき論」に縛られて、どこか恐れを持っているように見える。一方で、従業員アンケートにおいては、ことごとくやりがいを持って働いていない結果が出る。この双方不幸な経済社会はどうなっているのだろうかという違和感が本書の出発点になっています。

この違和感を出発点に、まずは時代感覚をつかむべく、組織論にこだわらず、技術等あらゆる分野において社会の変遷を俯瞰すると、言語表現の中にその変遷が見えてきます。「戦争」(ex.戦略)、「機械」(ex.インプット、アウトプット)のメタファーを経て、今世界のあらゆる分野で先進的なものとして表現されるメタファーは「生命体」(ex.循環、ホメオスタシス)。この生命体の表現が組織にも見られるではという仮説の下に、世界中の仲間に声を掛け、extraordinary「ちょっと変わった組織」をリサーチした結果、人が輝いていて、顧客の圧倒的な支持を得ており、給与も従来の標準を超えている組織が見つかりました。それらをまとめたのが『ティール組織』です。

ティールを理解するための「歴史」(段階)と「3つの特徴」

組織の進化、変遷を5段階の色(レッド→アンバー→オレンジ→グリーン→ティール)で説明します(本の中では7段階ですが、欧米では5段階で説明するケースがほとんどなのため、今回も5段階で説明します)。

まず、初期段階で見られるのは「レッド」、力で人を支配し、脅して集団を動かす、原始的な組織形態を持ちます。次に現れるのが「アンバー」、上意下達の指示命令系統を持ち、上下関係をつくることで人を動かし、大きなものを成し遂げます。失敗するとコミュニティから外されるという罰が存在するのが特徴です。

様々な組織が生まれてきた結果、競争の中で生き抜く必要性から生まれたのが「オレンジ」、科学的マネジメントの時代が到来します。頑張った分褒美が与えられる実力主義、能力主義といった組織を発展させる仕組みを持つのが特徴です。一部の上位者がビジョンを握っているため、競争、変化の激しい中で、異変を掴む現場の声が上がりにくく、また、人をスキルで配置する(機械的に扱う)ため、働く人にとっては人生の後半に虚無感が生まれやすいのが難点です。

その中で生まれてきたのが、多様な価値観を重視し、やりがいを追求する「グリーン」、組織構成員は仲間、家族という世界観を持ち、権限委譲、サーバントリーダーシップという文化が組織を象徴しています。多様な意見を尊重する一方でイノベーションが生まれにくく、一部階層は存在しているため、最終的な決定権はトップに残るという矛盾を抱えています。

そして、次世代組織の進化系「ティール」、完全に上下関係がなく、人が信頼で結びついており、一人ひとりが自由に自分で意思決定を行い、生命体のように動く。圧倒的なパフォーマンスを生む組織です。この組織形態は組織の規模や設立年数、事業内容に関係ありません。

生命体組織—ティール組織の3つの特徴。自主経営、全体性、存在目的

まずは、自主経営=self-management。階層構造を完全に手放した組織です。自分を律することができて、自分で決められる優秀な個人の集合体であるというのは全くの誤解で、単に社長も社員もない、ヒエラルキーを壊した階層がない組織を指しています。ニューロン、渡り鳥の群れといった、自然界に見られるような、トップが存在せず物事が動いていく様子になぞられます。トップを置いてすべてを制御する、むしろその方が不自然ではないかといった発想で、有機的に運営されていく組織です。

自主経営の中でも特徴的なのは意思決定です。ティール組織には誰かの承認を得る仕組みは存在せず、アドバイスプロセスを導入している組織が多いことが特徴的です。意思決定について専門性に強い人、影響を受けそうな人に聞いてみる。アドバイスを真摯に配慮した上で最終的には自分で決める、他責の生まれない、信頼関係が育っている土壌ではじめて機能するプロセスです。

続いて、全体性=wholeness。ひとりの人が複数役職を持つことを歓迎します。人が本来持っている多面的な要素、精神性、感情、理性、男性的な部分、女性的な部分、ありのまま全部あることにしたら、もっと人間的に、充実して働くことにつながるという考え方です。仕事をする上で効率性、合理性を追求するが故に、失われているものがあるのではないかという視点に立っており、感情の現れを人としてその人の持つ可能性を発揮するよきヒントとして扱います。

最後に、存在目的=volutionary purpose。現実を目の前に、事業内容も組織形態も変わりながらやっていく。固定的なビジョン、ミッションを持たず、「私たちは何のためにこの世に存在しているのか」各々が考えて動いていきます。「存在目的」についてお互いに耳を澄ます文化を持ち、全情報をICT等で共有する仕組みを持つ組織が多く見られます。ティール型組織のほとんどで中長期事業計画がつくられていません。

ティールは目指すべきゴール、正解ではありません

「ティール」は組織の変遷を俯瞰的に見た結果、現在生まれている組織形態を指しています。今後も増えていくだろうし、もしかしたらこの先「ターコイズ」が現れるかもしれません。けれども、株式市場では四半期で結果を求められ、経営者の責任が重い現在の社会では、グリーンの方が幸せかもしれません。ティールをヒントに、その試行錯誤を活用して、より健全なオレンジ、健全なグリーンを目指すのもありかもしれません。

嘉村さんとの対話の前に、システムコーチングとティールの接点

(CRRメンバーより)
システムコーチはコンサルタントでもなく、ファシリテーターでもなく、共同体を構成している人と人との関係性に焦点を当て、チーム、組織に関わっています。現状に自覚的に向き合い、変容をサポートする組織に向けたコーチです。「アンバー」「オレンジ」といった組織の段階にかかわらず、課題や変化に直面する人やチームの感情、繰り返されるパターンが現れる場面に立ちあうことがしばしばです。時には、感情が溢れてもいい、小さな声もこの共同体にとって重要な声であると教育しながら、あたかも生き物のような関係性に関わるわけです。解説にある「全体性」「存在目的」はシステムコーチとして関係性に関わる時に共感するコンセプトでもあります。

これほど『ティール組織』が人を引きつける訳

この本は学術的に云々というよりも、人として、今の働き方に感じる違和感の中で探求していって、見つけたものを整理して伝えている、お裾分けのように書かれています。人が人としてエネルギーを下げる言葉は使いたくないという著者の想いが詰め込まれていて、そんな著者のあたたかな視点の現れが、たとえば上辺だけの「働き方改革」に違和感を持つ読者の共感を得て広がっているように感じます。

ビジョナリーで、かつ事例がついているところもポイントだと思います。事業を立ち上げて、同じビジョンに共感した仲間が集まってきているのに、望まない管理マネジメントを導入していつの間にか違う場所に来てしまったという人たちに対して、そうしなくても仲間とたのしく、世の中を驚かせしあわせにする方法があるかもしれないという可能性と希望を与えたのかもしれません。

(後編につづく)

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