イキイキとした組織づくりに伴走したいORSCC水戸智さん

東洋合成工業株式会社 執行役員 人材総務部 部長/
ORSCC 水戸智さん

自分や周囲との「関係性」に苦しんだ時期

東洋合成という化学メーカーで人事と総務の責任者を務めさせていただいています。社員は約1,000名。半導体向けの感光材で世界トップシェアを占めている会社です。元々半導体の製造装置メーカーで20年程努めていたのですが、12年前に東洋合成に転職してきました。社員の皆さんとの関わりの中で「一人ひとりがイキイキ働ける組織をつくりたい」という思いで日々仕事に携わっています。

振り返ってみると、仕事はものすごくやりがいがありましたが、非常に大変な面もありました。大変だったのは、「関係性」です。自分との関係性や周囲との関係性に苦しんだ時期がありました。

自分との関係性で言うと、元々勉強が苦手で体育会系だったこともあり、スポーツ推薦で大学まで行かせてもらったんです。やりたいことがあって社会に出たわけではなく、それ程思考力が高くもなかったので、社会に出てから相当苦労しました。ずっとそこにコンプレックスがありました。

思いは一緒。でもプロセスや進め方に違いが

数年前のことなのですが、一時期経営陣との関係性で悩んでいたことがありました。「会社を良くしたい」という思いは一緒なのですが、価値観や役割の違いから良くしていくプロセスや進め方にギャップが生じました。「自分がこの会社に貢献できることはもうあまりないのではないか…」と非常にネガティブな気持ちになったことがありました。

そんな時、前職の時から長年懇意にしてくれている方が、「パーソナルコーチングを受けてみない?」と声をかけてくれたんです。彼はプロコーチの資格を持ちながらコンサルティング会社で働いていて、私が尊敬している方でした。そこからコーチングの世界に触れていく中で、「これをもっと学びたい」と思うようになりました。

それをコーチに話したら、「会社での役割を考えると、パーソナルコーチングから始めるよりもORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)からの方が良いかもしれないね」と言われたんです。ORSCの体験会に参加した後、2020年10月より本格的な学びをスタートさせました。

認めたくないことを認めたら関係性変わった

ORSCは、2人以上のシステム(関係性)に対するコーチングですが、まずは自分自身に向き合うんです。それが本当に苦しくて。その中で自分の弱さやエゴを自覚し、「俺は経営陣に評価されたかったんだ。認めてもらいたかったんだ…」ということに気づきました。

ORSCを学んだ2年間は、人生において一番疲れる体験でした。でも、その認めたくないことを認めたら、肩の力が抜けて、経営陣との関係性が変わっていったんです。

組織開発の捉え方も変わりました。それまでは、人が集まってコミュニケーションを取れば関係性がつくれる、いいチームがつくれるとイメージしていて。その後、組織としてのあるべき姿とか組織としての戦略をしっかり議論して、皆で作り上げていくものだと思っていました。

後半の「何をやるか」ももちろん大事ですが、ORSCを学んでからは、その前の「関係性づくり」の方がよっぽど大切だと感じたんです。これまで自分がいかに上辺の関係性をつくろうとしていたか痛感しました。

つながっていたい仲間と出会えた

ORSCの学びでは、とても良い仲間に恵まれました。27期の応用コースもそうですし、実践コースのサザンクロスの仲間もです。

実践コース中にサザンクロスの仲間がサプライズケーキで誕生日をお祝いしてくれました

実践コースでは、録音したコーチングを聞いてお互いにフィードバックをし合う「グループスーパービジョン」という時間があるのですが、メンバーに「みとちゃん、コーチじゃなくてリーダーみたいだね」と言われて。

自分が関わることで組織、システムを良くしたい、“良くしてあげる”というスタンスというか、システムの願いが出てくるのを待てずに、「こういうことを願っているんですよね」と言ってしまいそうな感じで…。「俺、コーチに向いていないのかな」と初めは落ち込みましたが、感じたことを率直に伝えてくれる仲間は本当にありがたかったです。

学びの場では、良いところも悪いところもちゃんと出して、お互いがすべてを受け入れる。そんな感覚を何度も味わいました。とてもざわざわしましたが、めちゃめちゃあったかいし、めちゃめちゃつながっていたいと思える仲間と出会えました。

お互いがすべてを受け入れながら一緒に学んだサザンクロスの仲間たち

自分らしく仕事ができる関係性へと変化

ORSCの知恵をどんなシステム(関係性)に使いたいかという私の「ワールドワークプロジェクト」は、イキイキとした組織づくりに伴走することです。社員ひとり一人が退職する時に、「この会社に入って本当に良かった」と思ってもらえるような、一人ひとりがイキイキと働ける職場・チームをつくってほしいという願いがあります。

ORSCを使った社内での実践は、応用コースの時からすでに始めていました。元々組織開発の取り組みを始めようと思っていて、あるコンサルティング会社から提案を受けていたんです。でも、金額は数億円と高額なのに、中身にその価値を感じられず。社長から「このプログラムどうなの? 精査して」と言われたので、「この金額の10分の1でやらせてください。もっと良いプログラムがあります」と話しました。

その時提案したのが、ORSCによる関係性構築と安全文化醸成に向けた本質的な問題解決のワークショップの組み合わせでした。わかりやすさから、システムコーチングを「チームビルディング」という呼び名で進めていきました。

初めはあまりお金をかけずに、私一人で進めていたんです。最初に当社の千葉工場で管理職40人位に対して4か月ぐらいかけて実施したところ、関係性に少し変化が生まれたり、「これいいね」という声をもらったりするようになりました。

そこから社長に「他の工場でもやってくれ」と言われ、サザンクロスの仲間に声をかけ、資格を取るまでの実践コース中は交通費と手弁当で手伝ってもらうようになったんです。

そこからまた新しい変化が生まれ、サザンクロスの仲間だけでなく、ORSCC(Organization & Relationship Systems Certified Coach)の資格を持った私のコーチにも入ってもらい、市川工場、淡路工場、高浜油槽所、社外の協力会社での実施へと広がっていきました。

高浜油槽所でのチームビルディングの様子
高浜油槽所でのチームビルディングの様子

この取り組みによって、皆、自分らしく仕事ができる関係性へと変わっていったんです。心の声を出しきるとコミュニケーションの質が変わります。お互いを知り、尊重し、受けとめ合うという本質的な相互理解、その質感はORSCじゃないと関係性をつくれないと感じてもらえたのではないかと思います。

社内にはすぐに変化を求める声もありましたが、変化はゆっくりなんです。ORSCを体験した人たちが前向きになって一歩踏み出そうとする、その現場の変化を感じられた時はやっぱりしびれました。ひとりではじめたORSCが今では社内ORSCerが私を含めて4人になり、心強い仲間が増えています。来年にはさらにあと4人増える予定です。

市川工場でのチームビルディングを手伝ってくれたサザンクロスの、てっぺい、のぶ、環境安全部長の中渡さん。中渡さんもORSCを学ぶ仲間に

「人と何かをつないでいく」活動を

このORSCによる関係性構築と本質的な問題解決のワークショップは今後、新たな拠点への拡大と若手含め職場単位の展開を予定しています。これまでの約2年間、5拠点でおこなったセッション数は100セッション、時間は330時間、参加者は延べ160名になりました。

ありたい姿を一緒に描いていくことで、安心安全な関係性がつくられただけでなく、当社で働くことの目的や目標のベースは一緒であることが確認できました。また、ありたい姿の実現に向けて具体的な対話を行える土壌もつくることができたと思います。


数年前に数億円の提案を受けたコンサルティングのアウトプットと今回の取り組みのアウトプットのレベルが全く違っていて、経営陣も驚いています。


今後は、企業の中で「人と何かをつないでいく」活動をしていきたいと思っています。例えば、「人と学習」「人とスポーツ」「人と人生のパーパス」というように。人と何かをつなぐのはすべて関係性です。そこに新たな可能性を感じているんです。ORSCを活用しながら、それらをつないでいく役割を果たしていきたいと思っています。

親愛なる私のコーチtedが応援に駆けつけてくれた千葉ロッテマリーンズ冠試合「東洋合成スペシャルデイ」

▼東洋合成工業株式会社 https://www.toyogosei.co.jp/

【編集後記】

ORSCを通じて、「経営陣に認めてもらいたかったんだ…」と気づいた水戸さん。「自分が認めたくないことを認めたら、経営陣との関係性が変わっていった」というところに、大切なエッセンスが詰まっていると感じました。人と何かをつないでいく新たな取り組み、楽しみにしています!(ORSCCのライター:大八木智子)