〈ティール組織×システムコーチング〉組織の中の一人ひとりに火を灯していく

東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授の嘉村賢州さんをゲストに迎え、『現場の物語から始まるパーパス経営へ 〜ティール組織の視点から「組織内チームコーチ」の存在意義を深める〜』と題してオンライントークイベントを行いました。

こちらのイベントでは、対談の他に「パーパス経営」についてティール組織の観点から嘉村賢州さんに講和していただきました。そちらは「解説編」にて詳しくお伝えしております。

本記事では、ゲスト嘉村賢州さんとCRR Global Japanファカルティの島崎湖・原田直和との対談の様子をお届けしていきます。

【対談者】
東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授/『ティール組織』(英治出版)解説者:
嘉村賢州さん
CRR Global Japan合同会社 共同代表/ファカルティ:
島崎湖、原田直和

【対談編】〈ティール組織×システムコーチング〉組織の中の一人ひとりに火を灯していく

チームや組織の生命体の声を聞く方法

島崎:先程(「解説編」で出てきた)「チームや組織の生命体の声を聞く」といったチームコーチの役割、まさにそうだと思っています。例えば、私たちシステムコーチはツールを使いながら対話を広げていきますが、チームメンバーのいろいろな声を聞いていくことを意図的にやります。そこでは、普段は出されない声を聞くことにも意識を向けています。

それこそ生命体と言ってくださいましたが、私たちは「私」「あなた」だけじゃなくて「私たち」にも独自の声があるという風に捉えているんですね。その声も聞こうとする。この「私たちの声」が「生命体の声」とが重なってくるなと聞いていて思いました。

原田:嘉村さんにお聞きしたいのですが、システムコーチングが入っていないような組織では、どうやって生命体の声を聞いているのですか? 

嘉村さん:特別に生命体の声を聞かずに、普通に現場の仕事を真摯にやっていくと自然に全体の声が見つかっていくというパターンと、意識して探求しているパターンとの2つがあるような気がします。

例えば、ティールでよく取り上げられている「ビュートゾルフ」という組織では、基本的には12人チームが横並びになっていて、12人の中で自由に意思決定できます。例えば、高齢者が怪我をすると、リハビリして戻ってもクオリティ・オブ・ライフ(QOL)が下がっていくということがあります。

※ビュートゾルフなど、ティール組織のチームコーチングの事例はこちらからご覧ください。

だから「私たちは高齢者がそもそも怪我をしない予防プログラムをすべきなのではないか」と12人で話して、理学療法士とかと組んで新しいサービスを作ったりするわけです。

それが本当に価値があることだとわかってきて、社内SNSとかに投げると、他のチームも「それ、うちの組織でもやろうよ」という感じでやり始めることが起きます。

多くの組織・既存の組織は、1個成功事例が生まれると、上が吸い上げて、全部横展開をしますが、ビュートゾルフはそれは絶対にしません。なぜかというと、横展開すると他のチームからすると上からやらされるという感じだからです。心の準備ができていないのにやらされると、嫌々やったりするし、センサーをどんどん切ってしまうんですね。

でも、ティールはそうではなく「見える化」(することで展開)しているので、多くのチームはやりたくなっていきます。場合によっては刺激を受けて、少し違うやり方でやろうという話も出てきます。ちゃんと自分の意志でやり始めると自然にチームに広がっていくんです。これは「伝播モデル」と言います。

そんな感じで広がっていくと、「私たちは予防段階からも障がい者や高齢者を応援できる可能性を持った組織だ」と組織のアイデンティティが少しシフトしていきます。そしたら「もっとこんなサービスもあるんじゃないか」と、現場チームでいろいろな実験が行われて、それがすごく喜ばれたらまた伝播して広がっていく、ということを繰り返していきます。

やっていることは、「私たちはどうやって利用者さんを幸せにするのか」というところを常に真剣に考えて、行動に移して、うまくいったものをシェアしているだけなんですが、勝手に組織のアイデンティティがシフトしていきます。これは、現場からの特別組織の声を聞く機会を設けなくても推移しているパターンです。

前々回のイベントでも話しましたが、

「私たちはこの組織を通じて、世界に何を実現したいのか」
「世界は私たちに何を期待しているのか」
「私たちがこの世界になかったとしたら、世界は何を失うんだろうか」

という3つの問いで探求することで、本当に届けるべき価値は何なのかを全体で定期的に対話している組織もあります

ファシリテーターとかチームコーチとかを入れながら、問いかけで探求している組織。さっきのビュートゾルフみたいな、現場の仕事を通じて自然に変わっていく組織があります。探求のしかたは10社あれば10通り違います。いろいろな探求をしながらパーパスを探求しているという感じがあります。

価値と弊害を認識した上で明文化を使う

嘉村さん:実際にお二人はいろいろな現場をやられていると思いますが、例えば、チームや組織の声を聞く時にどんなことをやっているか教えていただけますか?

島崎:それこそ、私たちの組織の変遷を聞いてもらうと良いと思います。

原田:CRR Global Japanは、まさにシステムコーチングの知恵やツールを使って、チームのミッションや願いを形にした経験があるんですね。その一つに「ビジョンから落とし込む」というツールがあるのですが、これはわれわれ組織を生き物に例えて、またそれを表現しながら、どんどんイメージをあぶり出していくというものです。

まさにCRR Global Japanを設立する直前に、そのツールを使って「結局、われわれって組織として集まって何をしたいんだっけ?」ということを語ったことがありました。

島崎:ワークを通してイメージを膨らませて、言葉に落とす前に体で表現してみたりして、そこに少しずつ言葉を乗せていくんですね。一瞬何をやっているのかわからなくなりがちですけれども、言葉に転換してみたら、ボードにたくさんの言葉が並んでいました。それをまとめました。

原田:そして「私たちは多様な個性に居場所がある、もっと楽しくもっとカラフルに相互につながる地球システムを創ります」という言葉になりました。ここには私たちのミッションや願いが書いてあります。自分たちから出てきた言葉を、全部ここに詰め込んだという感じです。

嘉村:良いですよね。まず問いがWantですもんね。「そもそも何がしたいんだっけ?」というところから問うていて。体を使ったり、対話をしながら、わあっと出てくるという感じであぶり出されたんだろうなという感じがします。

そして、言葉が多くて、少し長めの方が、自分たちの「探求の表れ」だなと思いながら、今見させていただきました。

島崎:これがあることで相当助かっているなと思っています。それぞれが、それぞれの役割を果たす時に、誰がこの話をしても、皆、割と同じトーンで話せる自信があるというか。一緒に経験したことがやっぱり大きいなと思っています。

原田:ちょうど1年前、新しいメンバーが入ってきたんです。新しいメンバーは、「言葉はなんとなくわかる。でも、よくわからない」みたいな感じでした。そして、参画して1年経ってやっと「あっ、そういうことかな」みたいな感じで、感じてもらえるようになって来ていると思います。

それと同時に、新しいメンバーが入ってきて私たちも何か変わっていく必要性があるのかもしれないと聞いていて感じました。

島崎:実際に「ミッション作り変える時かもね」という話はしています。

嘉村さん:僕は明文化することを「セーブポイント」と呼んでいます。ミッションやビジョンといった組織の方向性を明文化する価値は、共有できることがまず一つあります。共有しやすい、碇になるというのが、明文化の力だと思うんですよね。

同時に、明文化というのは弊害もいっぱいあって。その瞬間から腐り始めるというか。時代は変化するし、人生も変化するし。そういう中で変わっていくのが必然なのに、それにすがるようになってしまう。

あとは、明文化すると考えなくなります。それに沿っているかどうかという、まったく違う可能性を皆が模索しなくなるというのも明文化の弊害でもあります。それを認識した上でのセーブポイントとして明文化を使うとすごく良いですよね。

どの頻度でやるかというのは、皆の感覚にしたがって「そろそろ変えるべきだよね」と。作ったことに安住せずに探求の旅を続けるのはすごく大事です。

心に火がつくことの力強さを証明する時代

嘉村さん:(組織や企業などの)歴史というのはパーパス探求においては欠かせないです。さらに、創業者のストーリーですね。

重い腰を上げて立ち上げたという人の存在と、その人が動くに至った、その人自身の人生の歴史みたいなものがあって。そこには、その人を超えた存在、パーパスのノックがあるはずだというのがティール的な考え方です。そこに耳を澄ませるということは、パーパス探求ですごく大事です。

原田:今の話を聞きつつ、先ほど嘉村さんがA or BじゃなくてA and Bという話をされていたと思うのですが。パーパス経営ってすごく聞こえはいいけど、結構難しい場面が出てきそうだなと。お互いに納得感が得られないままに、進まざるを得ないときも出てきそうだなと思ったんですよね。

例えば、去年われわれの中で起きていたことでいくと、コロナの中で「対面ワークショップをやるか、やらないか」という話がよくあったんです。お互いが結構対立し合ったんですね。お互いに傷つけ合うくらいまで、喧々諤々と言い合って。やっぱりお互いに譲れないものがあるという状態の時に、なかなか前に進めなくなった瞬間があったなと思っています。

ティールやパーパス経営というところでいくと、そういう場合ってどう見ていますか? 

嘉村さん:ティールで言うと、結構シンプルです。基本的に全体で合意や意思決定をすることはあまりないので。リアルでやりたい、バーチャルでやりたい、でも懸念点があるというところで言うと、リアルでやりたいという人が現れました。そこは、何かしらの思いがあって、何かしらのパーパスを体現する中での一歩を踏み出したいというのがあります。

でも、それに対して、「助言プロセス」としてこういう状況があるということも、誰もが言う権利があるという中で伝えます。それを真摯に配慮して、その人が決定する決定権があるので。皆でそこの方針を決めようと言うと、皆、方針に責任転嫁できてしまうわけです。決定を委ねられると、反対意見にももっと本気で耳を澄ませるようになるんです。

島崎:今回の「対面でコースを実施するかどうか」の話し合いは、ある意味命に関わる話だったので、そこはお互いの価値観がすごく出ました。そしてどれも正しいんですよね。一回で決められなくて、何回も話して、皆でしんどくなってしまったということがありました。

大変だけれど、皆でそのプロセスを経ているから自分事にはなりますよね。「内側のエネルギー、内側の声を大事に」と嘉村さんが言ってくださった通りで。

私たちはシステムコーチとして様々なチームに外部コーチとして関わっているわけですが、とにかくお互いの声を聞き合う。小さい声も、耳の痛い声も聞き合うということをしていますそれが内側のエネルギーになって、エンジンになっていくということも何度も目撃しているし、そこからアクションを起こしていくということの繰り返しで。

1つ1つは小さいことかも知れないけれど、まさにパーパスを探る感じ。何がチームにとって大事なのか、その大事なことを大事にしながら前に進めるということをしているという意味では、重要な役割を担っているんだよなと気づきました。

嘉村さん:今までは、ビジョン・ミッションも上から振ってきて、その計画の中で個々人が動くという、ファンクションで人が動くというところの組織論が主流だった中で。改めて、現場の一人ひとりの心に火がつくことがどれだけ力強いかというところを証明していく時代だなという感じがしますよね。

違和感も含めて対話をしていく中で、しっかりと一人ひとりの中に火が宿って、共に対話する中で、「私たちって、今の世の中で表現するのはここなんだ」と見つかったときのパワフルさ。そういうプロセスをもっと皆で大事にし合えれば、もっとユニークなビジネスが生まれたり、エネルギーになる企業が増えたりしていくんだろうなという感じはします。

チームコーチは組織・チームのシグナルに気づける存在

原田:先程聞いていて、組織の中のチームコーチはシグナルに気づける存在でもあると思いました。約4年ぐらいシステムコーチの視点で一つの組織に関わり続けていますが、「反対意見にももっと本気で耳を澄ませる」という点で特に敏感になっているのは、体や体調に出てくるシグナルです。例えば、特にオンライン環境だと結構あるあるだなと思っていますが、鬱じゃないけれどメンタル不調で連絡がなくなったとか、睡眠不足が続いているなど、言葉としては反対意見がでなくても何か体が教えてくれているサインなのではないかと思っています。

このシグナルについては最初の頃、その状態が起きている個人の問題だと思って扱っていたのですが、長い間組織を見続けているとだんだん組織やチームの症状だと捉えるようになってきました。そして、「どんな小さな声があるのか」「どんな痛みがあるのか」と耳を澄ませられるようになってきて、組織・チームに起きている問題だと捉えて、丁寧に扱っていくと組織を変えるきっかけにもなると思うことがあります。

嘉村さん:本当にそうですよね。急に人が辞めていく、急に人が病気になる、大クレームとして表われるみたいな感じがあった時に、はっと気づかされるんです。たどれば、絶対に小さなシグナルは発されているはずなんです。

それは、放っておいたら絶対に大きなシグナルとして出てきてしまうものなので、早期発見で耳を澄ませることによって、行くべき道筋が見えてくるということもあります。

とはいえ、現場の人たちはどうしても気づかないことが多いと思うので、それを見つけてあげるというのはかなり重要なチームコーチの役割だという感じはしますね。客観的に見る人がいたら、絶対にわかるはずなんです。「2週間前よりも熱量が低いな」とかね。

そういうエネルギーや空気を見てほしいですよね。空気をファシリテーションしてもらいたいというか。話されている文言だけで生産性の会話をしているのではなくて。「立ち上げたときのエネルギーを失っているけど大丈夫ですか?」みたいな感じです。ちゃんと見つけてあげたら、もっとエネルギーが上がったりするんですよね。

島崎:本人たちは「混乱しています」って言うんだけど、すごくエネルギーやモチベーションが高いということもよくあります。

嘉村さん:そうそう。すごくカオスで、喧嘩してやっているけれど、客観的に見たら「このエネルギーがあったら大丈夫だな」と思うこともあります。虚無感のほうにいっていると、これは戻すのが大変だなという感じがするけれど。

「これだけ怒りがあるということは、これが噛み合ったらとことんまで行けるんだろうな」っていうのは。そう思えるのは、客観性のある立場しか無理ですよね。

原田:客観的だけど、ある意味、組織の中にいるからこそ自分事でもある。両方必要なんだと思います。

嘉村さん:コーチやチームコーチのテクノロジーが発展していく中で、一人一人が自分の内側とつながることが、ひいては、実は組織進化の材料になるんだと。向き合うことが組織にとっての宝ものになるかもしれない。そういう流れになるというのはすごく素敵なことだなと、改めて今日対話をしながら感じました。

過剰に言っているわけではなくて、僕はチームコーチに期待をしています。また、一緒に探求しながら、社会の進化に一緒に旅路をできればなと思いました。ありがとうございました。

イベントの様子

【編集後記】
パーパス経営で言われているパーパスの使い方とフレデリック・ラルーが言っているパーパスの使い方の違いにハッとしました。一人一人が自分の内側とつながりながら、パーパスを探求し続けることの大切さを改めて感じる時間となりました。(ORSCCのライター:大八木智子)