ORSCの知恵を使って平和的な解決を探るORSCC大門あゆみさん
法律事務所UNSEEN 代表弁護士/ORSCC 大門あゆみさん
現在、法律事務所の代表弁護士をしています。クライアントの約7割が法人、約3割が個人です。法人の多くが顧問契約をしていただいている企業で、そうした法人の法律相談や契約書の作成・審査のほか、債権回収や労務問題など紛争の対応(交渉や裁判等)を行っています。個人のクライアントは、離婚や相続、交通事故などの案件を扱っています。
目次
弁護士は山登りの案内人に似ている
この仕事の楽しさの一つは、紛争の解決に向けたプロセスに関わることができる点だと感じています。弁護士の仕事は、山登りの案内人に似ていると思っています。
クライアントの中には、険しい道でも最短で行きたい方もいれば、遠回りをしても景色を見ながら(丁寧にプロセスを踏みながら)ゆっくり登りたい方もいます。
山の登り方は何通りもありますが、弁護士はクライアントとの対話のなかで「こういう風にプロセスを組んでいきましょうか」と話し合いながら、クライアントが立ち向かう山を一緒に登り、越えていくような存在だと思っています。
グレーに見えていた世界がパステルカラーに
ある時、自分の意識が大きく変わる経験をしました。偶然コーチングを仕事にしている人に出会い、1対1のコーチングを受けてみたんです。
コーチングを経て、「人はそもそも恐い存在だ」と思っていた世界観から、「人はそもそもあたたかい存在だ」という世界観に変わり、グレーに見えていた世界はパステルカラーに変容しました。
こうした自身の体験から、弁護士としてのクライアントに対しても、コーチング的な対話を提供できたら、より効果的にクライアントに関わることができると思い、CPCC®︎(Certified Professional Co-Active®︎ Coach)※というパーソナルコーチングの資格を取得しました。
※CPCC®、Co-Active®︎は、株式会社ウエイクアップ CTI ジャパンの登録商標です。
より詳しくお知りになりたい方は、CTI ジャパンのホームページをご覧ください。
自分は正しくもあるし、正しくもない
その後、複数の人に対してコーチングを行うORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)のことを知り、交渉などの場面で活かせると思い、学びに行くことを決めました。
ORSCは、仲良くなるという結論や、良い関係性を作るというゴールありきで進めるものではありません。システム(関係性)がどういう状態にあるか、このシステムはどこへ向かうのかなどを明らかにすることが目的です。
ときには別離するという選択肢もありますが、「システムが持っている力」を信じて進んでいくところが本当に素晴らしく、覚悟を持って関係性に関わるところに奥深さを感じました。
また、ORSCを学ぶ前は、どこかで「相手は間違っていて、自分が正しい」と思っている部分がありましたが、今は自分の価値観がありながらも、「自分は正しくもあるし、正しくもない」と思うようになりました。
解決を創るという意味では“相手も仲間”
システムコーチングの資格であるORSCC(Organization & Relationship Systems Certified Coach)を取得した後は、ORSCの知恵を仕事に活かしています。
1つは、企業での紛争解決に向けた話合いのときです。
例えば、日本のオーナー企業の中には、役員や株主が親族で構成されていることがあり、親族間で仲違いし、紛争化することが時折あります。
そうしたときに、クライアントの代理人という立場ではありますが、解決を創る一因として話合いに参加し、「これからも一緒にやっていけそうかどうか」を、各当事者及び相手方の代理人弁護士と話し合うことがあります。
その結果、裁判になっている案件でも訴えを取り下げ、「もう一回一緒にやっていこう」という形で解決するケースもあります。双方代理人弁護士を立てている状況ですから、そこに至るまでには、丁寧な対話が必要になります。ただ、やみくもにお互いに権利主張や相手の落ち度を交わすのでは分断は広がる一方です。
そうではなく、ORSCの知恵を活かして、この話合いをどういう風に進めていくかを当事者で意見交換をしながら事前合意したり(例えば、「攻撃的な表現は使わない」、「Iメッセージで伝える」等)、お互いの話を否定することなく、交互に尊重して聴き合うようにファシリテートすることを実践しています。
別離をしないことが必ずしも幸せであるということではなく、別離も相互にとっての幸せの在り方の一つですが、弁護士として壊れかけた関係性をつなぎとめる方法を探る形での紛争解決の後押しができるようになったのは、ORSCの知恵のおかげです。そして、ORSCを学んでからは、単純な二項対立ではなく、「解決を作るという意味では“相手も仲間”だ」と思うようになりました。
「クライアントの利益とは何か」を考えたときに、クライアントとの深い対話が必要になると思います。というのも、法的権利を主張し、相手の落ち度をあげつらうことで、相手との分断を深めて解決することが、クライアントの本当の願いであり利益であるかどうかは疑問が残る場合もあるからです。弁護士が人と人との分断を深める存在であるとすれば、それ程悲しいことはありません。
クライアントと相手との関係性に焦点を当て、対話の中でお互いにとって可能性を信じられる解決を作っていくことがクライアントにとっても最大の利益になり得るものだと考えています。弁護士が、その活動のなかで本来のシステムの姿を明らかにすることで平和的な解決を探り、それによって世界平和に貢献できているとしたら、本当にやりがいがある仕事だと思います。
ボードメンバーに定期的に行うORSCセッション
仕事でORSCの知恵を活かしていることはもう1つあります。これまで、企業の社外役員の仕事を数社させていただいていたのですが、ある企業では、取締役会の後にボードメンバーにORSCのセッションをすることがありました。
3~4か月に1度ですが、「今、私たちの関係性はどうか?」であるとか、「私たちが目指しているところはどこなのか?」などの問いとともにシステムの姿を明らかにするときにORSCのツールを使いました。
それによって、ボートメンバーの間で「あの方はそう考えていたんだ」というような新たな発見があったり、「そんな過去の体験や思いがあったとは知らなかった」という声が社長をはじめとするボードメンバーから聞かれたりしました。
普段は忙しいなかで通常業務に終始していますが、ボードメンバーの思いや願い、感謝の気持ちを伝えあうORSCのセッションは、いまここの組織の関係性を明らかにし、次に進むための課題が見つかることもあります。
まずは弁護士自身が幸せであることが大事
これまでなんだか、かっこよく述べてきましたが笑、自分の未熟さや力不足を痛感することも沢山あり、私自身がまだまだ成長途中にあります。そのようなところにいるのですが、今後は、弁護士の中にコーチングやシステムコーチング(ORSC)を学ぶ仲間がもっと増えたら良いなと願っています。
私たちの仕事は紛争に関することも多く、クライアントのなかにはイライラしたり、攻撃的な側面が表出しやすい状況の方も少なからずいる中で、難しさやストレスを感じている弁護士もいます。
そのため、人や組織に効果的に関わるという観点から「弁護士×コーチングの可能性を広める会」で勉強会を月1回続けています。クライアントへの効果的な関わり方を学ぶことで、クライアントとの信頼関係は築きやすくなります。それは、弁護士自身の幸福度も上げるものです。
私たちはクライアントの幸せを願っていますが、まずは弁護士自身が幸せであることが、クライアントの幸せのためにも大切だと思っています。
私たちがどういう「在り方」で、どういう「心持ち」でいれば幸せなのかを考えるためにも、コーチングやシステムコーチング(ORSC)を学ぶ弁護士が増えたらと思っています。
※法律事務所UNSEEN
https://unseen-law.com/
※弁護士×コーチングの可能性を広げる会
https://coach-possibility.com/
編集後記
「相手は間違っていて、自分が正しい」と思っていた大門さんの考え方を大きく変えたORSC。「解決を創るという意味では“相手も仲間”だ」とまっすぐに思いを語る姿に凛々しさを感じました。つながりや関係性など「目に見えないもの」も大切にしている大門さん。「UNSEEN(目に見えないもの)」という事務所の名前に深い思いが込められているのだと思いました。(ORSCCのライター:大八木智子)
※CPCC®、コーアクティブ®︎は、株式会社ウエイクアップ CTI ジャパンの登録商標です。
より詳しくお知りになりたい方は、CTI ジャパンのホームページをご覧ください。https://www.thecoaches.co.jp