「関係性システムが理解される世界」を創りたいCRR Global Japanファカルティ三橋新さん

何者かになりたい」と思っていた

これ、人生で初めて言うんですけれども、CRR Global Japanのファカルティオーディションを受けた時に、「俺を取らずに誰を採る!」って思っていました。というのも、誰よりもORSC(Organization and Relationship Systems Coaching=システムコーチング)を企業の中でやってきた“実践者としての自負”があったからなんです。当時は社内コーチとして毎月のように取材を受けていて、人生花形期で、調子に乗っていた時期でした(笑)。

あれからCRR Global Japanのファカルティとして活動して5年が経ちました。同時にSansanという会社で人事として働きつつ、マネージャー向けのパーソナルコーチングやシステムコーチングをおこなっています。他社で企業の研修やワークショップなどもしています。

そもそもコーチになりたいと思ったきっかけは、自分の中に「何者かになりたい」という思いがあったからなんです。前職はベンチャー系の人材派遣会社で、営業や経営企画をしたり、他社に出向したりと、20代から30代の初めの頃までは、結構何でもやっていました。

Sansanに入社した時は営業から入って、一年後には人事・総務・法務を一人でやるようになり、その後も社内の必要な役割を転々とする感じでした。周りは営業のプロフェッショナルやエンジニアのプロフェッショナルなのに、何だか自分だけプロ感がなくて、劣等感や物足りなさを感じて「何者かになりたい」と思っていたんです。

そんな時に、社内で「一人ひとりの強みを見つけよう」という企画があって、ある役員が「三橋の強みは雰囲気だ」というフィードバックをくれました。「お前がいると何か雰囲気が変わるし、人が話しやすくなる」という言葉をかけてくれたんです。

自分としては認識していなかったのですが、前職の社長にも「おまえは聴き上手だ」と言われたことを思い出して。「そんな雰囲気が活かせる仕事は何だろう?」と図書館へ探しに行った時に出会ったのが、『コーチングバイブル』(東洋経済新報社)でした。それを読んで、「これはまさに俺がやりたいことだ!」と思って、まずはパーソナルコーチングを学ぶことにしました。2013年のことでした。


「一歩踏み出す」という言葉が好き

コーチングを学び始めて社内で実践していったのですが、当時社員は50~60人いて、知っている人だけでなく、経営陣にも全員体験してもらいました。一番のチャレンジは、社長とのコーチングでした。リーダーシップ論の1つに「一歩踏み出す」という考え方がありますが、その言葉が好きなんです。「未知のところへ飛び出していく」ことが好きだし、やりたいことだし、得意なんだと思います。

「未知のところへ飛び出していく」という言葉で思い出すのは、大学3年生の時にタイとラオスに40日間旅をしたことです。実は高校までサッカー選手になりたくて大学でもサッカーをしていたのですが、トップチームには入れず、就職を目前とした中で「ここから何をするのか」と自分探しの旅に出ました。

そこで少し年上のベトナム人の男性に出会って、1週間ぐらい一緒に旅をしたんです。色々なところに連れて行ってくれたり、ごはんも頼んでくれたりと頼りがいのある人で、それがありがたくもあり、同時に残念さも感じていました。

というのも、これまでの自分の人生は、誰かに言われたことをやっていくとか、誰かがやるのを待つ人生だったなと思っていて。自分で何かを決めて、自分で動いていきたいというテーマを持っていたので、「その人から離れなくては」と思い、そこから一人でラオスへ行くことに決めました。

その時、なぜか号泣してしまって。その頃、孤独を感じながら生きていたけれども、本当は人とつながりたくて、不器用さから孤独でいるというパターンがあったように感じているんですね。「人に依存しない」というところがテーマだったのですが、いざ離れるとなると悲しくて寂しかったんだろうなと思います。そこから「やっぱり人が好きだ」「人が大事だ」と気づいて、人材派遣会社に入社を決めたということがありました。

チャレンジは相手へのフィードバック

先述した通り、「何者かになりたい」というところからコーチングを学び始めたのですが、学んでいくうちに「パーソナルコーチングの職人になりたい」「それを職にしたい」と思うようになりました。2015年にCPCC ®︎(Certified Professional Co-Active Coach)*1という資格を取得し、そこから社内でコーチングを立ち上げ、制度化しました。

※1 CPCC®、Co-Active®︎は、株式会社ウエイクアップ CTIジャパンの登録商標です。より詳しくお知りになりたい方は、CTIジャパンのホームページをご覧ください。 

コーチングをしていく中で、コーチングを受けた社員がセッションの中では元気になるけれども、職場に戻るとまた元に戻ってしまうもどかしさを感じていました。まだ関係性のダイナミクスみたいなことまではわかってはいませんでしたが、「パーソナルコーチングだけでは限界があるのかもしれない…」と思い始め、コーチ仲間から聞いていたORSCを学びに行くことにしたんです。

学んでみて、すぐには価値を証明できなかったものの、何か可能性があると思ったんですね。例えば、3つの現実レベルの中でも、願いや感情などの「ドリーミング」やひらめきや直感といった「エッセンス」は会社の中では扱われにくいものなので、言葉にしきれなかったことが表現される感じがあって、相互理解が進み、より関係性が深まるインパクトがあるのを感じました。

(出典)CRR Global Japan ORSCプログラム

その後、ORSCC(Organization & Relationship Systems Certified Coach)という資格を取得してファカルティになり、今は「プロフェッショナル実践コース」でメンターコーチングを主に担当しているのですが、正直言うと、フィードバックについては自分の中にチャレンジがあるんですね。

というのも、CTIの基礎コースに参加して3人1組でパーソナルコーチングをした時に、「オブザーバーはフィードバックをしてください」と言われたので、コーチ役の人に「7割ぐらいコーチが話していましたね」と伝えたら、その人が傷ついてしまったんです。

その後お互いに正直に話し合って関係性は修復しましたが、良くも悪くも相手のことを考えずに思ったことを言ってしまうところがあると認識していて。自分の強みを見つけて活かすというストレングス・ファインダー(現・クリフトンストレングス)で一番の強みが「最上志向」なんですが、“終わりなき美学の追求”というか、その人のできていないところが見えてしまうと、もっと良くなるのではないかと思ってしまうんです。

振り返ってみると、その資質が自分の中で培われるきっかけとなったのは、サッカーの経験にあるのかもしれません。中高生の時にはセンターハーフと言って、背番号はいわゆる10番(チームのエース)をつける役割でした。

その時にフリーキックを決めるという最高のプレーをしたり、ゾーンに入る経験をしたので、その体感覚を知っているからこそ、相手にも「最高」のものを求めてしまうのかもしれないですね。だからこそ言い方を考えて、相手に「もっと学びたい」と思ってもらえるようなフィードバックをすることが、僕にとってチャレンジなんだと思います。

「学生時代にサッカーで培ったものが今の自分を形作っている」と話す三橋さん


将来親になるであろう若手にORSCを

ワールドワーク*2についても話をしていきたいのですが、実践コースを受けていた頃の僕のワールドワークは、「システムコーチングの成果を数字で証明する」ことでした。社内でORSCを実践していく中で、成果を数字で計測できるようにしたいという気持ちがあって、人事の担当役員と一緒に取り組んでいたんです。

*2 ORSCの知恵を使い、目の前に起きているさまざまな問題・課題に働きかけ、より良い関係性(Right Relationship)を共に作ろうとする取り組み

ORSCを受けると成果が上がるのかを見てみたり、社内エンゲージメントサーベイを定期的に取っているので、そこにどう影響しているのかを調べてみたり。結果的には、その相関を見出すのは難しく、数字での証明はできなかったのですが、役員と定期的にミーティングをしながら探究するというプロセスが、コンセンサスを取るには大事だったのだと思います。とても貴重な経験でした。

そこから僕のワールドワークは広がっていき、今は「関係性というシステムが理解される世界」を創っていきたいと思っています。白か黒ではない世界観というのかな。会社の中で言うと、何か問題が起きた時や目標の数字に達しなかった時に「誰々が良くなかった」とか名指しで言われがちなんですが、物事は色々なことが関係しあって成り立っているので、そこが理解されて世界ができていくと良いなと思うんです。

そして自分はその世界の一部であって、自分が変わっていくことで、その世界をちょっとでも良くできると信じられる世界ができると良いなと思っています。

実は、これが潜在的にコーチングの道に進んだきっかけになったと思っているのですが、小学生の頃、学童で友達と泥の球を投げ合って遊んでいた時に、その友達が土の中に石を入れて投げてきて、それが僕のお腹に当たったんです。血気盛んな時期だったので、僕も同じようにやり返したら、相手の目のあたりに当たって傷つけてしまいました。

母親が先方へ謝りに行ったのですが、結構罵声を浴びせられたらしくて。母も我を忘れる感じだったのか、「あなたなんて生まれて来なければ良かったのに」と言われたんです。大人になってから母にその話をしたら母は覚えていなくて、謝ってもくれたのですが、その痛い体験は心の中に強く残っていて。

もし母が当時ORSCを知っていて、実践者だったら、この“親子という関係性”にもっと自覚的で、そうした言葉は出なかったんじゃないかと思うんです。そう考えると、親と子の関係性が人生にも影響すると思っていて。だからこそ、将来親になるであろう若手の人たちがORSCを体験して、「対話の仕方って大切だな」と思って、自分の家庭に持ち帰ってくれたら良いなという願いがあります。自分が組織でシステムコーチングをする一番の理由は、これかもなと思っています。

システムを明らかにすることが大事

コーチングは外部から関わると予算が必要になってくると思うのですが、社内コーチだと社員が“受けたい時に受けたいだけ受ける”ということが自由にできます。コーチである僕にとってもパーソナルコーチングやシステムコーチングをたくさん提供できるというメリットもあります。だからこそ社内コーチとして誇りを持ってやっています。

さらに言うと、職場のリアルを知っておきたいという気持ちも強くあります。社外のコーチがORSCの契約をする時には、ある程度課題が明確になってから実施を承認されると思うのですが、社内だとその課題がまだ言葉になっていない、顕在化する前から扱えるので、予防としてもORSCを活用できればと思っています。

僕がORSCで一番大事にしているのは、システムを明らかにすることです。だから究極は、コーチのメタスキル*3によって自然と内省が促されて、システムが実装していくことが理想です。まだORSCを知らない人もいると思いますが、「こんな社会にしたい」とか「こんなことをなくしていきたい」という思いや願いを持って、自分が動いて影響を与えていきたいという人に学びに来て欲しいですね。

*3 「場」に影響を与える感情的姿勢や哲学

問題を自分の外側に置くのではなく、かつ自分だけが100%悪いということでもなく、自分も一部として含まれていることを自覚しながら、「誰もが正しい、ただし全体からすると一部だけ正しい」というところが理解され、体現されると、世界は優しくなっていくと思います。僕はそうなっていくことを願っています。

「社内コーチを誇りを持ってやっています」と笑顔で話す三橋さん


【編集後記】サッカー選手としての誇りと挫折、大学時代のタイやラオスへの一人旅、そして幼少期のお母様との痛烈な体験。こうしたことが今の三橋さん(あらちゃん)を形作っている源泉なのだと感じました。「何者かになりたい」と思っていたフェーズは終わり、次の世代のためにも社内でORSCを届け続ける三橋さん。その思いを応援します!(ORSCCのライター:大八木智子)