リモートワークにおけるチームコーチの可能性ティール組織から紐解くチームコーチの重要性 vol.5

リモートワークにおけるチームコーチの可能性

昨年、ティール組織の解説者である嘉村賢州さんと開催したオンライントークイベントから抜粋。オンライン環境でのチームづくりや運営における「チームコーチ」の可能性について対話を通じて探っていきます。

<本連載>

vol.1 ティール組織における3つの特徴と仕組み
vol.2 ティール組織におけるチームコーチ事例3選
vol.3 対話で深める「チームコーチ」とは?
vol.4 ORSC®の智慧をチームコーチングへ生かす
vol.5 リモートワークにおけるチームコーチの可能性(この記事を読んでいます)

対話者:
・嘉村賢州:東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授/「ティール組織(英治出版)」解説者
・島崎湖:CRR Global Japan 合同会社 共同代表/ファカルティー
・原田直和:CRR Global Japan 合同会社 共同代表/ファカルティー

リモートワークとチームコーチ

原田:新型コロナ感染症により、企業がリモートワークに切り替わっていく中で、チームや組織というものが大きくクローズアップされ、色々な問題も明らかになってきました。

オンライン化が当たり前となった組織では、一度も会ったことないメンバーでチームをつくったり、リモートでメンバーの合意を得ながら作業を一緒に進めていく必要性が出てくると思います。

その場合、「オンラインでどうやってチームを運営していくのか」という課題が出てきそうです。その課題の一つとして、チーム内でどうやって情報や個人のナレッジ(知恵)を共有していくかということがあるかと思います。

一橋大学名誉教の野中郁次郎さんが提唱したナレッジ・マネジメントの枠組みに、SECIモデルというものがあります。チームの個人が持つ「暗黙知」を、「共同化」(Socialization)、「表出化」(Externalization)、「連結化」(Combination)、「内面化」(Internalization)というプロセスを経ることで、組織やチームの共有の知識「形式知」に変換させるというモデルです。

リモートワークになる前から、数字のマネジメントから部下の行動管理や育成など、そもそもリーダーが一人で抱える責任が重すぎるのではないかという疑問がありましたが、対面で体感的にこの暗黙知と形式知の交換を行うことで、何とかカバーしていました。

しかし、リモートワーク化が進む中、チームでの暗黙知情報の共有が難しくなっているのではないか。さらに中間管理職などのマネジメント層に負荷がかかっているのではないか。そうしたオンラインでのチームの問題や暗黙知を、表出して見える化するためには、第三者の存在(チームコーチ)が有用なんじゃないか、という発想が今回のイベントテーマのきっかけの一つになっています。

責任や負担を分担する組織へ

島崎:多くのリーダーの環境が、チームコーチの必要性と紐づく感じがしています。今までリーダーが一人でチームをまとめて、成果を出すことに全て責任を背負ってきた状況が、リモートとなってよりその役割が複雑化して、これ以上は対応が不可能になってきている。そんな中で、リーダーの負担を減らして本来の役割を発揮できるようにするために、組織の形態にも変化が求められているのではないでしょうか。これからの未来の組織ってどうなっていくんでしょうね。

嘉村:日本中にティール組織がどんどんできていくとは思えないし、ティール組織著者フレデリックが言うようにティール組織を目指すのが正解でもないわけです。ただし、たとえ組織に階層構造が残ったとしても、もっとリーダーの責任や負担をチームで分担していく方向にはなるんじゃないでしょうか。

この前、元ラグビー監督の中竹竜二さんとお話したとき、こんな話を伺いました。
中竹さんが監督時代学生に「責任は俺が取るから」と言っていたら、主将が「いや責任は俺が取ります」と言い出し、さらにチームメンバーが「責任を取るのは自分たちだ」と言い出したそうです。ティール組織では「トータルレスポンシビリティ」と言いますが、チームの全員がチームの存在目的に責任を持っている状態ですね。

最近の海外の流れでも、CEOという存在自体が間違いを生んでいて、CVO (Chief Vision Officer) に変えるべきだという考え方があります。つまり、社会に必要なことを探求する役目と経営責任を負う役割を両方持つと、ビジョン探求がおざなりになってしまうということです。今の世の中、責任という名のもとにリーダーやマネジャーがあまりにもいろんなことをやりすぎているので、そこが緩んでいく組織は増えていくんじゃないでしょうか。

原田:責任を押し付けるの真逆で、責任を自分で無理やり取りに行くことが、会社での自分の存在意義だと感じているCEOやリーダーもいるかもしれませんね。

島崎:世の中の流れや変化が速く、複雑で不透明な状況の中で、チームがより速く変化に対応するためには、リーダーとしての権限や責任を手放すことができる人ほど周りからの協力も得られて、結果的に速く目標に向かえるというプロセスが生まれそうです。この変化のプロセスは、ある意味組織のカルチャーを変えることでもあるので、そのときにチームコーチがいたらいいんだろうなという気がしています。

原田:リモートワークになって、チームの状況が見えにくいからこそ、見える化するために外部のチームコーチを活用するという方法もあるのかなと思いました。

「本当に世の中に必要なもの」

嘉村:あとこれはかなり厳しいとは思うんですが、フレデリックが指摘するように、今の企業はあまりにも自己の生存と成長に軸足を置いているので、「自分たちは世の中に必要なのか」「社会に何をギフトできるのか」ということを組織が問い直すことが増えていくかもしれません。

個人レベルでは「人生の大切な時間を使って世の中の役に立つ仕事ができているのか」ということを問われる時代にさらに入ってきてそれを模索できていない組織は個人を統率するしかなくなってくるわけです。一方、ビジョンの探求に舵を切った企業では、統率しなくても人はやる気を持って働くでしょう。

また、「本当に世の中に必要なもの」「ギフトとなるもの」見つけるセンサーは現場の方にあるので、階層構造の壁で遮断された状態から現場の声を取り戻すためには、安心安全に本音を発言できることが大切になるでしょう。

結局、よりトップダウン的な俊敏性を取り戻して生き残る組織と、オープンに開いて柔軟に組織構造も変えていく組織と2極化するような気がします。

原田:安心安全な場ということで言うと、こういう不安定な世の中だからこそ、一緒に未来をつくっていける、立ち向かって行ける、安心感のあるチームや組織が生き残っていくんじゃないかと聞いていて思いました。

島崎:よりチームの一員であるということをどれだけ自覚できるかも問われますよね。

嘉村:先端的なティール組織では、出たくない会議は出なくていいし、外れたいプロジェクトは自由に外れてくださいとしていて、その方が組織としての「気付く力」が高まるというんですね。集まる価値がない会議には集まらなくていいわけだし、人が抜けていくプロジェクトはそもそも不要だったといち早く気付けるわけです。リーダーが共感的な振る舞いやビジョンを出せないんだったら、誰もいなくなるというシビアな関係をつくった方が、はるかに感度高く進化していける組織が築けるという時代に来ているわけです。

さて、ミニコラム「ティール組織から紐解くチームコーチの重要性」シリーズは今回のvol.5で最後となります。皆様いかがだったでしょうか。

組織の話にとどまらず、社会も世界も一つのシステムとして、全体的に変わろうとしている時代を見通してまた、チームコーチという言葉を切り口に一緒に探求の旅を歩ませていただけば嬉しいです。最後までお読みいただきありがとうございました。

「チームコーチング」や「チームコーチ」についてさらに詳しく掘り下げたい方にはORSC Laboの「チームコーチング時代の幕開け」と題した連載もおすすめです。システムコーチング®の世界観や、概念、ツール、そして現場での事例を交えてながら「チームコーチング」についてさらに深められる内容となっております。

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