リモート環境を超えて自走するチームへ「関係性システムの知性(RSI)」がチームにもたらすもの

2020年4月7日に東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の7都道府県に初めて緊急事態宣言が出されてから早くも2年が過ぎました。業種や職種によって難しさもあったかと思いますが、それでも多くの企業ではリモートワーク・リモートチームという働き方にシフトし、変化に対応しながら今日まで活動を続けてきていることと思います。この働き方においては、コスト削減や昨今の状況であっても事業が継続できるというメリットもあれば、セキュリティ対策や勤務管理などの難しさもあります。

また、この2年という月日はこれらの目に見えるチャレンジだけでなく、「関係性の構築」という目には見えにくいけれど確実に私たちに影響を与えている要素も浮き彫りになったのではないでしょうか。今回はリモート環境でのチーム作りをシステムコーチングの視点からお伝えしていきたいと思います。

リモートワークでの「関係性の構築」

ある社内でのテレワーク実態調査(*)によると、約6割の管理職は「部下がサボっていないか心配である」と回答し、​​​​約3割のテレワーク経験者が「仕事のプロセスや成果が適正に評価されていないのではという不安が増している」と回答しています。

これは上司が部下を信頼できていれば「サボらないだろう」とも言えるし、部下が上司を信頼できていれば「評価してくれるだろう」に転じる可能性を示唆しています。これらの声はリモートワーク以前からあったとも言えますが、リモートワークでますます課題が表面化したとも考えられます。

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また、企業を取り巻く環境がグローバル化に向かう中、さらにコロナの影響もあり、オンラインを通じての人材育成やチーム作りはますます増えていくこと継続されていくことを考えると、相手が目の前にいないという環境下でどのようにして互いに関係性を築いていくのかは、今後組織において重要なポイントになることは容易に想像ができます。
(*RMS Message vol.60 2020年11月号を参考)

「関係性」に働きかけるシステムコーチング

システムコーチング*とは、まさにこの「関係性」に働きかけるコーチング手法です。リモートワークという状況を最優先に考えた場合、システムコーチングの数あるスキル・ツールからお役に立てそうなものをご紹介することもできるのですが、今回は敢えてシステムコーチングの土台となっている「関係性システムの知性:RSI」という概念をご紹介します。

これはハウツー寄りにしないことで、どんな状況下でも関係性は意識的・意図的に作れるということを意図しています。

*システムコーチングについてさらに理解を深めたい方はこちらの記事をご覧ください。「システムコーチングって何ですか?」

関係性システムの知性(RSI)とは何か?

関係性システムの知性(RSI)は、ダニエル・ゴールマンを始めとする研究者によって開発された感情的・社会的知性(ESI)を含みながらも、これを超えるものです。RSIは、自分自身の理解(感情的知性)に始まり、他人の感情的経験の理解(社会的知性)へと広がり、最終的にはグループやチーム、コミュニティなどの社会システムに共感し、それらと協力できる力(関係性システムの知性)へと発展していきます。

EQ:(Emotional Intelligence)感情的知性
SI:(Social Intelligence)社会的知性
RSI:(Relationship System Intelligence)関係性システムの知性

関係性システムの知性は、感情的・社会的知性を含みつつ、より大きな枠組みに焦点を広げたもので、自分自身を関係性システムの一部として見る力になります。また関係性システムとは、「共通の目的やアイデンティティを持ちながら、相互に依存しあうメンバーからなる集団」と定義されていて、これによってチーム/組織をたくさんの人の集合体とみるか、1つの統合された「全体(whole)」とみるかの違いが生まれます。

チーム作りのカギは「チームをどう見るか」

この「チームをどう見るか」という見方の違いが、チームや組織作りにおいて大きな違いを生むことになります。例えば、新規事業を立ち上げを試みているチームにおいて、明らかに協働していく必要があるにもかかわらず、実際に動き始めると自分の担当をこなすことで精一杯になってしまうといった経験はありませんか?この事業は何のためにどこを目指しているのかという大きな枠組み、また自分はこの大きな枠組みのどの部分を担い貢献しているのだといった意識、すなわち自分自身をこの大きな絵を描く一部として見れるかどうかで動き方、働きかけ方はおそらく変わってくるでしょう。


これは大手企業の一事業部のリーダーチームに外部コーチとして関わらせていただいた時のことです。この事業部は組織からは事業拡大を求められています。本来であれば海外に常駐し現地での情報収集や現地の人たちとの関係性作りからスタートしたいところでしたが、コロナ禍でその願いも叶いません。

そんな中、リーダーチームの皆さんは多大なプレッシャーを感じていました。今自分ができること、やれることに焦点をあてて取り組まれていましたが、経験したことのないことへの取り組みの連続、且つ一向にことが前に進まないことへの不安が大きくなっていたのです。そんな中、私はチームリーダーからメンバーがスタックしている状態をみかねて1人1人の個別コーチングの依頼を受けました。


お1人お1人とのセッションでは、自分の取り組みについて不安を感じていたり自信を失くしていたものの、自分自身のリーダーシップについて何が強みで何がチャレンジかへの意識はとても高く、冷静に振り返られていました。これらは先ほどご紹介した3つのタイプの知性のうち、EQ(感情的知性)に含まれます。

そしてリーダーの皆さんはリーダーチームとして動いていることもあり、チーム内のメンバーについての思いを話されることも多々ありました。時には共感を示し、時には不満の声もありました。それでも、もしその方の立場に立ってみるとどう思いますかと尋ねると、共感やねぎらいの声に変わることも多々ありました。これはSI(社会的知性)に含まれます。

そんな中、外部コーチとして役割こそ違えど皆さんから同じような不安、焦り、戸惑いが聞こえてきていたので、チーム全体に同じような感情があることをそれぞれのコーチングセッションの中でお伝えしました。これは、このチーム全体に起きていることやチームに存在する感情の部分となりますので、RSI(関係性システムの知性)に含まれる表現となります。

その結果「自分だけではないのだとわかり安心しました」との声を数多く聞くことになりました。実はこの「自分だけではないのだとわかり安心しました」という声をここ数年複数の組織の中で聞いてきました

もちろん、これはコロナ以前からあった声でもありますが、リモートワークになってから物理的に離れ離れで仕事をするようになり、相手の状態が見えない、相手の気持ちを感じられにくいのは明らかです。

そんな中で仕事がうまくいっていない時に、それをメンバーに伝え助けを求めることはこれまでよりも難しいことなのだと思います。その結果「これは自分の課題」と抱え込み、ますますスタックした状態から抜け出せなくなっているようにも思います。

この状況を外部コーチとしてRSIのフレームで見た時に、不安や恐れが個々の行動を遅らせ、チーム全体のパフォーマンスに影響を与えているように見えました。

チームの一員としての自分

 物理的に離れ離れが続いている今の環境下では、これまで以上に自分自身をチームの一員として捉えられるかどうかがとても重要だと考えます。ここでお伝えしているのはチームの一員であるということが形の上でのことだけでなく、精神的にもそう思えているかどうかということです。

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これをシステムコーチングにてお伝えしている「システム」の定義に照らし合わせて考えると、2つのことが浮かび上がってきます。

・共通の目的をどう認識しあえるか
・相互に依存しあった関係であることをどう認識しあえるか。

共通の目的はおそらく、何のためになぜ行うのか、その先に何を願っているのかといったことをチームで共有することがまさにこれに当てはまるでしょう。さらに、その目的が自分自身の価値観や願いとどうつながっているのかへの理解が深れば深まるほど、チームで取り組む意義が深まり、チームメンバーとしての誇りは強くなっていきます。

一方で、相互依存の関係であることについては、言葉のインパクトとして違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。ここでお伝えしたい相互依存とは、お互いがバラバラな存在ではなくつながりあっている、影響しあっている関係を意味しています。

もしこの実感があるのであれば、その現れとして、誰か1人の発言を「〇〇さんが言っている」というような属人的に捉えるのではなく、お互いの声をチーム全体から見れば1つの声だけれど大事な1つの声として捉えることは比較的容易にできるのではないでしょうか。システムコーチングでは、これを「システム(チーム)の声」と呼んでいます。

もしお互いの声が属人的ではなく「システム(チーム)の声」と捉えられたなら、その声がどこからきているのかを探る思考になり、その先におそらく次のような問いが立つのではないでしょうか。

今、”チーム”に何が起きている?

起きている問題に対して「誰が何をしたのか」だけにフォーカスしていたら、いつまでも個別の対応に追われ続けるでしょう。もし、私たちが「誰が何をしているのか」の視点から、「チームに何が起きているのか」の視点に立てたならどうでしょうか。

何が起きているのかのプロセスをチームメンバーで探ることが始まった時には、それはすでに一段視座が上がり、且つそこに自分も含まれていて、チームの一部であり一員である状態と言えます。このような状態を作り出せたなら、その時にはもう、リモートワーク・リモートチームでの関係性作りのチャレンジを超えて、共に何かを創り出すプロセスが始まっていると言えるでしょう。

これはリモートという環境から生まれるチームの関係性構築に関する課題を超えていくのだと思います。このチームの捉え方を変えていく際に、「RSI」という概念が入り口となり助けになるのです。

ちなみにこれは課題だけにフォーカスをしているわけではなく、チームに起きている良いことにも当てはまります。


先程のリーダーチームへの関わりですが、その後もお1人お1人にシステム(チーム)の声をお伝えすることを続けましたが、自分だけではないのだと安心感が生まれ、自信を少しづつ取り戻し、会議中に自分からメンバーに助けを求めたり、思い切って自分のアイデアを伝えてみたりと、個々が動き始めたことでチームとしても前進したことは言うまでもありません。

「関係性システムの知性(RSI)」がチームにもたらすもの

 私は外部コーチとして関わらせていただいた経験からお伝えしていますが、同じように組織内のチームコーチ、又はチームの意思決定やコミュニケーションスタイルに大きく影響を与えるリーダーがまずは「RSI」のフレームを持ってチーム作りに関わることができたならどうでしょうか。

内部でメンバーを教育することをしながら、チームメンバー全員でチームを関係性システムと捉える。
すなわち、これが創られた時には、もはやリモートワーク・リモートチームを越えて自走したチームになっていることでしょう。これからのチーム作りは自然に良い関係性になることを待つのではなく、チームの目的を達成すべく、自分たちで意識的・意図的に作っていくのです。


〈システムコーチングを学ぶ〉
今回紹介した関係性システムの知性(RSI)はORSCプログラムの基礎コースでより詳しく学ぶことができます。

ORSCプログラムについて