関係性システムを軸にした「システム・インスパイアード・リーダーシップ」とは?CRR Global共同創設者マリタ・フリッジョン インタビュー
関係性システムに基づいた新しいリーダーシップの形【システム・インスパイアード・リーダーシップ】。昨年アメリカでこれを説いた書籍が発売されたのに続き、先月日本でもその対訳版が発売されました。
著者は、20年近くにわたりシステムコーチングを世界に展開してきたCRR Globalの共同創設者マリタ・フリッジョンと、それを世界的大企業シェルで組織に実践してきたフランク・ウイト・デ・ウエルド
大きな組織でこのリーダーシップを実践する方法などを教えてくれたフランクのインタビューにつづき、今回はシステムコーチングの生みの親の1人であるマリタに、この新しいリーダーシップの構想が生まれた背景やそこに込められた思いなどを語ってもらいました。
インタビュアーはCRR Global Japanファカルティ(トレーナー)のゆりこと森川 有理さん。実は有理さんは15年ほど前にマリタに出会い、その出会いが日本にシステムコーチングを連れてくることになりました。
この2人だからこそ語られる、システムコーチングのこれまでの軌跡、そしてその日本との繋がりを、エッセンスレベルでじんわりとお届けします。
目次
「インスパイア―ド」に込めた思い
ゆり:ではさっそく本のタイトル『システム・インスパイア―ド・リーダーシップ』ついて、マリタに聞いていきたいと思うのですが。
その前にまずちょっと私の方から、このタイトルを訳した時の苦労話を皆さんにさせてください。
タイトルって大事じゃないですか。
だからこのタイトルをどう訳すか、すごく悩んだんです。特にこの「インスパイアード」という言葉に当たる日本語が見つからなくて。
たとえば「システムを基軸としたリーダーシップ」など20ぐらい候補を出して、みんなで考えたんですけれども。
結局、このインスパイアードっていう言葉には、 マリタとフランクの思いがすごく詰まっているので、これはもうカタカナにしてこのまま出そうということに決まりました。
その代わりにサブタイトルをつけて、『人と組織の進化を加速させる システム・インスパイア―ド・リーダーシップ』という風にしました。
そんなわけで、私としてはマリタにこの「インスパイアード」にどんな思いを込めたのか、皆さんと一緒に聞いてみたかったんですけど。
マリタ:そう言われてみると、実は私自身、全く同じような道筋をたどりました。
確かに、例えばゆりが言ったように「システム・センタード=(システムを基軸とした)」という言い方もできたと思うんですけれども。そこを考えたときに、いや、そこではないなと。
言うならば、「システムにインフォームしてもらう=システムから情報をもらう、教えてもらう」というようなあり方でしょうか。その方が、「システムの一部としてリーダーがいる」ということに合ってるのではないかと思ったんですね。
このシステムのリーダーシップというのは、RSI(リレーションシップ・システム・インテリジェンス:関係性システムの知性)の本であるわけですけども、これはそもそものこの(ORSCプログラムの)トレーニングの最初からあることを紐解いていく、もしくは紐解かれる、ここに尽きるんだなというふうに思ったわけです。
リモート環境を超えて自走するチームへ〜「関係性システムの知性(RSI)」がチームにもたらすもの
この構想が生まれた背景
ゆり:そもそも、これはコーチングから始まったのに、今回なぜリーダーシップなんでしょう。
マリタ:大きく変わることが求められている分野、そして社会的にも経済的にも政治的にもすごくチャレンジすべき分野を考えた時に、それはやっぱりリーダーシップになるなという風に思ったんですね。
ORSCからリーダーシップに視点が変わったのは、2013年に初めて企業内でシステムコーチングの研修をやった時ですね。そこでハタと「リーダーシップというのが大事なんじゃないか」っていうことに気づいたんです。
コーチングのツールとしては、このシステム・インスパイア―ド・リーダーシップのやり方の部分については、ある意味私たちはすでに持っていたんですね。
たとえば「システムに属する全てのメンバーは、システムの声だ」ということ。「ちょっとごめんね、わからないよ」っていうような声をシステムの声として捉える、そしてそのシステムの声として捉えたところからこの場を作っていくっていうことが大事なんだと思います。
そしてもう1つ、これはコーチングのトレーニングでコーチたちと話していく中でより明らかになってきたんですが。
私たちはどうしても「誰が誰に対してどういうふうにやったのか」というような思考に陥りがちなんです。そうではなくて「今何が起ころうとしているのか」。これをシステムから教えてもらうという、こういう考え方・姿勢でいることが大事だということにも気づきました。
システムの声を聞きながら変化していった
私が公の場でスピーチをする中で、「どういう風にしてこのRSI(関係性システムの知性)というものが実際に形になっていくか」ということを1つテーマとして持っていた時があって。
それは私がコーチングのコースをトレーニングしてる時の参加者の皆さん、そして世界中にいるCRR Globalのビジネスパートナーの皆さん、例えば、CRR Global Japanのような皆さんですね。
そういう人たちとの対話の中からまさに出現してきたもので、言わば、先ほどお伝え
した「システムにインフォームしてもらう、教えてもらう」という中からこのことが浮かび上がってきました。そしてそれが最終的にはシステム・インスパイア―ド・リーダーシップっていうところに決実していったという風に思うんです。
長い回答になってしまったけれども、それが「どうやってこのシステム・インスパイア―ド」というものが出てきたかということの答えになります。世界のシステムから湧き上がってくるような、そこから何か触発されるような、そんな感じで出てきたものになります。
オーディエンスの皆さんにもお伝えしたいのが、この本自体が非常に多くの方々のインスピレーションやインプットからできているということです。
この本のために、ORSCのトレーニングを受けたことがあるリーダーたち30名ほどにインタビューをしてきました。そうすることで、彼らが何を学び、何がシステム・インスパイア―ド・リーダーとしての必要なコンピティンシーなのかを聞くことができました。
私自身、本を書く前から、システム・インスパイアードのコンピテンシー(優れた成果を創出する個人の能力・行動特性)とはどういうものか見えてはいたけれども、フランクがそういう風にいろんな方をインタビューしたそのフィードバックをもらいながら(コンピテンシーを)さらに調整していきました。
それもまさにシステム・インスパイアードで、システムの声を聞きながら変化していったんですね。
そういう意味では、今世の中に出ているシステム関係の本っていうのは、出た瞬間にもう時代遅れになっているとも言えると思います。
システムは常に出現し続けているということですね。
どうなるべきかではなく、今どうあるのか
ゆり:日本人もしくはアジアのリーダーたちは、西洋的なリーダーシップっていうところにけっこう苦戦しているようにも思えます。
リーダーはちゃんと前に立ってみんなを引っ張っていかなきゃいけない。そういう強いリーダーシップが求められるイメージとしてあります。
マリタの出身の南アフリカのカルチャーも(日本と同様)どちらかというとみんな和を大事にするカルチャーがありますよね。そこから思うことって何かありますか。
マリタ:とてもいい質問ですね。南アフリカと日本は異文化としていろいろ共通点があると思いますし、「私たち」のような共通体としての意識がどちらの国もあると思います。
まずトレーナーとかコーチとしてリーダーに関わる時、そのリーダーがどうなるべきかということではなく、今どういう状態かということを見ながら関わっていく必要があります。
もしそのリーダーがさっきゆりが言ったようにぐいぐい行くようなタイプであったとしても、コーチはそこにミートしていく(合わせていく)必要があると思います。
そこから1番小さなエッジというか、このリーダーが抵抗を示した1番小さなところから始める必要があります。そしてリーダーとしては、彼らが今どこにいるかっていうことを知る必要がある、インフォームされる必要があると思います。
そしてそこをさらに紐解いていく、明らかにしていくという形で進んでいく。それがシステムとして進化していくという私たちが語っていることの3段階の1つと言ってもいいんではないかと思います。
システムって、本当に生きものなんだ
ゆり:マリタの話を聞きながら思い出していたんですけど。私たちジャパンとCRR Globalが、どれだけミートしてミートしてミートして、それからコラボレート・協働していくに至ったかっていうことをね。今、本当に思い出しながら聞いていました。
マリタ:私も、ゆりとあと数名の日本のチームが日本からアメリカとカナダに行ってトレーニングを受けていた時のことを思い出しました。あれはとってもインパクトのあるものでした。
ゆり:2008年ですね。私はその時、ORSCの基礎コースをカリフォルニアで受けたんですよね。マリタとジムパターソンのお2人がコースのリーダーで。
その時はまさに雷に打われたような体験っていうんですかね。「あ、 システムってほんとに生きものなんだ」っていう、すごいインパクトを受けました。
同時にその時感じたのがね、「あれ、これって知ってる感覚・・・日本の人たちはこういう感覚を持ってるんじゃないか。だとしたら、これを日本に持ち帰る必要があるな」って。
マリタ:あれはまさに、ゆりと私の神話の起源でもあったと思います。
私は当時南アフリカからアメリカに来て、「私が私が」的なスタイルに対して違和感を感じていて、日本人の「私たちが」とか「一緒に」とか、そういったものに共感したのを覚えています。
ゆり以外にもフェイスも含めいろんな人が関わってくれて、「一緒に」というところから生まれたものだと思いますし、これってもう予測できないものなんだと思います。
ゆり:この本の中で言われているような、私たちより大きな何か。それが私たちに何かこれを教えてくれて、出現してきた。そんな感じですよね。
システムとしてどういう答えなのか
マリタ:皆さんにチームと一緒にリードする人をちょっと思い出してほしいんですけれども。この人と一緒に働きたいと思うかどうか。自分の選択で決めるわけでもなく、リーダーの選択でも決めるわけでもなく、何かこう自然と2人から生まれるような、そういう出会う場について思いをはせてほしいと思います。
ゆり:日本語でね、「縁・ご縁」っていう風に呼んでるんですよね。
計画してたわけではないないんですけど、出会ってしまって、そこから何かが起きていって。こういうことをご縁と呼んでいて。
マリタにとって、その何か自分より大きなもの、インスパイアしてくれる大きなもの。それは一体何なのでしょうか。
マリタ:皆さんも、人生を振り返ると何か大きな出来事があったと思います。それによって自分が何者かを考えるようになったり、それを経て自分が形作られていったような経験が。私もそうでした。
この世界に生まれてきて、色々な出来事があって、自分を形作っていきました。私は若い頃に両親をなくしたり、 あるいは南アフリカというアパルトヘイトがあったような環境で育ったり、あるいはロールモデルとして自分の父親がいました。
そういった様々な環境を経て、自分をどういうふうに教育していくか、自分をどう成長させていくのかという方向性が決まっていったと思うし、誰から学ぶのかっていうのも選んでいったと思います。
常にこの次の答えを探すっていうプロセス、自分じゃなくてシステムとしてどういう答えなのかみたいなものを常に探求してきたような気がします。
答えになったかどうかわからないけれども、そういう方向性だと思います。フェイスや日本のみんなや様々な人たちから色々学んできて、私があなたであり、あなたが私であるような感覚でいます。
ゆり:マリタがどういう風に人生を歩んできて、そして幼い頃からどういう風にそれによって形作られてきたか。
大事な人たちとの出会いや関係性。そういうものが今のマリタを形作り、そしてそのマリタが今、世界に対してインパクトを生み出している。全てが繋がっているっていうことを感じ、すごく心が震えました。
ありがとう、マリタ。