ライフワークとしてスポーツ界を支援ORSCC松場俊夫さん

Toshio Matsuba standing in front of a tree

NPO法人コーチ道 代表理事/ORSCC 松場俊夫さん

スポーツ界に関わるきっかけはアメフト

現在、研修の講師やワークショップのファシリテーターをしています。領域は2つあって、1つは企業向け、もう1つはスポーツ向けです。企業は新人から役員まで、人材開発や組織開発をしています。

スポーツは個別のチームに入って、チームビルディングやコーチングの研修、ワークショップをしています。その他にも、ハンドボールやソフトボール、ラグビーなどボールを扱うチーム競技のコーチを集めて、研修やワークショップをすることもあります。

スポーツチームに研修をおこなう松場さん

スポーツに関わるようになったのは、高校時代にアメリカンフットボールを始めたことがきっかけです。当時通っていた兵庫県にある関西学院高等部のアメフト部が日本一だったんです。「アメフト部に入ると日本一になれるし、めちゃめちゃモテる」という不純な動機で始めました(笑)。

その後、大学、社会人とアメフトを続け、会社を辞めた後はアメフトのプロコーチになりました。日本選手権で5度優勝を経験。2007年にはW杯日本代表コーチに選出されました。

2007年アメリカンフットボールW杯で日本代表コーチに選ばれた松場さん

始まりは森川有理さんのセッション

初めてORSC(Organization and Relationship Systems Coachingシステムコーチング)に触れたのは、日本にORSCを導入した森川有理さんのセッションを受けた時です。有理さんが米国でORSCの資格コースにチャレンジしていた時に、今CRR Global Japanのファカルティをしている島崎湖さんと一緒にORSCのセッションを受けました。

2005年位だったと思うのですが、湖さんと一緒に「コーチングをスポーツ界に広めたい」ということで、手弁当でコーチングのワークショップをコツコツやっていたんです。スポーツ界は未だにコーチングの普及がまだまだなんですが、当時は今のようなSNSもなくて、人数が集まらず、打ちひしがれながらやっていました。

そんな時に有理さんにセッションをしてもらったんです。これまで二人で自分たちのペースでやっていたのですが、組織にするという方向性になって、「外的役割」や「内的役割」*1について話しました。そこで僕が代表の役割を、湖さんが副代表をすることになったんです。

湖さんが、「あの時は誰が代表をやるのか役割の話をせざるを得ず、緊張しました。松場さんが『やりますよ』と言ってくれて、何か扉が開いた感覚がありました」と語っていました。そこから仲間をあと2人集めて、スポーツ指導者が学びあえる場として、NPO法人コーチ道を設立することになりました。

その後、湖さんが米国へORSCの資格を取りに行ったのですが、その時は夫婦の関係性に関するコーチングの資格を取りにいっていると思っていて。それがORSCとはつながっていなかったんです(笑)。ある日突然「有理さんから受けたものも、湖さんがやっているのもORSCだったのか!」と気付き、これは受けなければとORSCを学び始めました。チームスポーツに関わっているということもあって、1対1のコーチングよりもこちらの方が活用できると思いました。

フレームで整理されて、すっきりした

ORSCの基礎コース、応用コースが終わった段階では、まだORSCが使える感覚がないと思いました。頭では理解したし、コースの中で実践する機会はあったのですが、使える自信がまったくなかったんです。資格そのものに興味はなかったのですが、ORSCはいろいろな知識、経験がないと使えないと思い、資格コース(現在の実践コース)に進むことにしました。

資格コースでは、今まで感覚でやっていたことがORSCのツールや考え方によって整理されたんです。例えば、ORSCでは「場の感情を読む」*2ということをします。“体育会系あるある”なんですが、空気を読むのが上手なんですね。怖い先輩とか監督の雰囲気で「今日はやばい」と感じ取ったり。今まで何となくやっていたものがフレームで整理されて、すっきりしました。

個性あふれる仲間と学んだ資格コースの卒業式

「関係性が良くなったら、成果は上がるのか?」と言われて

僕のワールドワークプロジェクト*3は、「スポーツチームをORSCでサポートする」です。資格コースの時は3チームを目指していたのですが、結果2チームをサポートすることになりました。1つはアメリカンフットボール、もう1つはシンクロナイズドスイミング、今はアーティスティックスイミングと呼ばれているスポーツチームです。

シンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)のチームでORSCを使ったチームビルディングを実施

あるアメフトのチームでは、コーチと選手の幹部(主将、副将、主務)の人たちにORSCをおこないました。ランズワーク*3を始めとするORSCの代表的なツールを活用し、中でも体を使うことを中心にやりました。スポーツをする人は体を動かすことに対しての親和性というのがすごく高いんです。体を使って何かを感じるとか、発見するとか、気づくというのは、企業の人以上にフィットすると思いました。

彼らは創部以来2部だったので1部昇格を目標にしていたチームでしたが、残念ながら上がることはできませんでした。しかし、当時のヘッドコーチからは、「相互理解が深まり、コーチたちと選手たちの関係性に変化が見られた」という言葉をいただきました。「上下の関係」から「横の関係」になり、「トップダウン的な会話」から「対等に対話できるようになった」など、関係性の質が変わったという話がありました。

資格コースの頃は、こちらのスキルや経験がない中でORSCをおこなっていたので、苦労したのを覚えています。当時よく言われたのは、「関係性が良くなったら、成果は上がるのか?」ということ。これは企業でもスポーツ界に行って話をした時にも何度も言われたことです。

今、企業では「心理的安全性」という観点から、関係性が良くなったらエンゲージメントや生産性、営業利益が上がったといったエビデンスが出ていますが、当時はまったくなくて。

スポーツ界は企業以上に成果が明確で、完全に「勝った、負けた」「メダルを獲れた、獲れなかった」というところで判断されることが多いのです。企業以上にシビアなんですね。ORSCを入れて成功した事例はまだスポーツ界の中ではなかったので、説明するのがすごく難しく、なかなか理解いただけなかった記憶があります。

東京オリンピックでチームをサポート

資格コースが終わってから様々なチームを支援させていただいたのですが、2020年には東京オリンピックで2つのチームをサポートしました。1つは卓球女子団体で、選手のチームビルディングと、監督・コーチ・スタッフのチームビルディングを担当。もう1つは柔道混合団体のチームビルディングをしました。

人間関係を付箋で表現し、俯瞰するワークを卓球のチームで実施

すごく印象に残っているのは柔道です。100㎏台の人と60㎏台の人が戦ったら、60㎏台の人は勝てないですよね。だからこそ柔道には体重別の階級があるのですが。どうしても、体重の重い人が強い=偉いという図式になるんです。知らず知らずのうちに「ランク」*4の考えが広がっていくんですね。

柔道は個人競技ですが、オリンピックの時には団体戦もあるので、チームビルディングが必要なんですね。男女混合のチームで多様な階級の選手が戦うのですが、団体戦のメンバーであるか否かに関わらず、チームジャパンとしてランクを取りたいと思い、大きい人が苦手そうで、小さい人や俊敏な人が得意そうな体を動かすワークをしてみました。

おこなったのは「フープリレー」。フラフープを皆でくぐりながらリレーをするというものです。案の定110㎏と体が大きい人たちはつかえてしまって、すごく時間がかかりました。そうすると笑いが起きたりして、ランクがひっくり返るんです。そうした体験をすると、今までの古い伝統とか考え方とか文化が徐々に溶けていくんですね。

体を動かして競わせると盛り上がるし、こうしたORSCの知恵を使うと、関係性が変わってきたり、人の見方が変わったりします。チームビルディングにおいて、非常に効果的でした。

柔道のチームビルディングでビジョンを共有

ORSCで人やチームをサポートしたい

私自身が仕事をする上でのミッションは、「人と組織の可能性を解き放つ」です。そもそも人はすごく可能性があるし、チームもすごい人の集まりのはずなのに、いわゆる環境――ORSC的に言うと関係性によって――自分の力やチームの力が発揮できないということが起きます。

そこをORSCのツールや考え方などを入れながら、素晴らしい成果なり、素晴らしい影響力なり、素晴らしいリーダーシップなりを人やチームが持てるようにサポートしたいと思っています。

振り返ってみると、私は高校、大学、社会人と、指導者や環境に非常に恵まれていました。理想の指導者に巡り合えて、環境、文化、伝統がある理想のチームで活動ができたんです。でも、世の中はそうではない人の方が圧倒的に多いんです。

いまだに体罰やハラスメントがスポーツ界では起きていますし、トップダウン的な関わりはまだまだ多いです。サッカーの森保監督や野球の栗山監督といった対話型の監督が増えてきてだいぶ変わってきましたが、そうではないところがまだまだたくさんあります。スポーツ界で、あるべき姿、あるべき方向性、正しい関係、正しいチームになっていく支援をしたいと思っています。これはずっと死ぬまで、ライフワークとしてやるつもりです。

▼NPO法人コーチ道 https://coach-do.com

【編集後記】息子がチームスポーツをしているため、スポーツ界におけるランクやハラスメントは気になっています。監督・コーチと選手たちが対話を通じて正しい関係(Right Relationship)を創り、成果を上げるチームになっていく。私もそんなことを願う一人です。情熱を持ってスポーツ界に関わり続けている松場さんのライフワーク、心から応援しています!(ORSCCのライター:大八木智子)