相手を変えるのをやめ、自分という「楽器」を調律する。3.4kg減量と朝4時起きから見えた、関係性の築き方

小笠原祐司さん(通称:てっちゃん)をよく知る人なら、彼がここ数年で大きく生活スタイルを変えたことに気づいているかもしれない。

「PFCバランスを管理して3-4kg減量する」「睡眠時間を8時間確保する」「朝4時に起きる」「スマートフォンを無意識に見る環境をなくす」。

一見するとストイックな健康管理や効率化に映る。しかし、この徹底した生活改善の背景には、自閉症と知的障害のあるお子さんとの生活において、「家族」を健やかに保ち続けるための、切実な自己変容があった。

2024年12月に出版されたフェイス・フラー著『関係性を生きる(Relationship Matters)』。長年「システムコーチング」を学んできた彼が、知識やノウハウの限界にぶつかり、いかにしてこの書籍の哲学を日常で実践してきたのか。その軌跡を伺った。

「やり方」の限界と、「あり方」への問い

『関係性を生きる』を読み、「自分自身をもう一度整理できた」と語る小笠原さん。その背景には、対話のスキルだけではどうにもならない子育ての壁があった。

「書籍の中に『縦型の成長(垂直の成長)』と『横型の成長(水平の成長)』という話が出てきます。横型がスキルや知識を学ぶことだとしたら、縦型は自分のあり方やスタンスを見直すことです」

障がいのある子どもへの関わり方の本を読んでも、各家庭の状況によって現実は異なり、しっくりこなかったという。

「技術で何とかできるものではなく、目の前にいる家族と『自分はどうありたいのか』という垂直の成長(あり方)を整理することが大事だと気づきました。自分のあり方から逃げずにちゃんと向き合う重要性を、この本から学びました」

嵐をコントロールしようとしない

相手をどうにかすることを手放した小笠原さんが支えにしているのが、書籍の中にある「ラジカル・レスポンシビリティ(革新的な責任感)」だ。起きたことを誰かのせいにするのではなく、その状況の中で自分にできることに100パーセントの責任を持ち、「自分には何ができるだろう」と問い続ける姿勢である。

「子どもがすごい癇癪を起こしたりした時に、それは『天候』を変えようとしないのと同じだと気づきました。嵐が来た時に『嵐やめろ』と言っても止められない。もう起きたことは変えられないんです」

コントロールできない相手(嵐)を変えようとするのをやめる。この哲学は、思いがけない場面でも発揮された。ゴールデンウィークの電車内で、お子さんが癇癪を起こしてしまった時のことだ。

終始内省的に語りつつも、エピソードを振り返るその口調には熱がこもる

「近くにいた乗客から『子どもを静かにさせろ』と怒鳴られたんです。イライラもしましたが、旅行を台無しにされたら僕が同じ立場でも怒ると思うと、相手の気持ちも理解できました。だから、『障がいがあって騒いでしまうのは申し訳ない。ただ、あなたの立場だったらイライラするのは当然だと思う』と率直に伝えたんです」

すると相手は落ち着きを取り戻し、見ていた別の乗客から「ああやって関わりを持てたのはすごい」と声をかけられたという。

「自分が気持ちを表現することを諦めなかったから、周りにも良い影響を与えられた。と同時に、『もし僕に2パーセントでも非があるとしたら?』と考え、次は違う時間帯の電車に乗ろうと、次への工夫に繋げることができました」

自分が調律されていなければ、他者とは響き合えない

相手を変えられないなら、自分にできる責任は「自分自身」を整えることだ。

書籍には、自分を「楽器」に見立て、自分の楽器が調律されていて初めて他者と美しいデュエットができるという比喩が登場する。

「自分がチューニングできていないと子どもとの関わりもうまくいかない。子どもとのデュエットがうまくいかないと、パートナーともうまくいかない。それが仕事にも影響を与えると実感した時、これはもうスキルや知識の問題ではないと思ったんです」

仕事と育児の両立でイライラが募っていた時期。「このイライラを選んでいるのは自分だ」と気づいた小笠原さんは、夜の仕事をやめ、子どもと一緒に夜9時に寝て朝4時に起きるスタイルへと生活を根底から見直した。

久しぶりの再会。以前よりもぐっと引き締まり、洗練された佇まいに。

実はインタビュー後の雑談で、この「調律」の深さが明かされた。朝4時起きだけでなく、3.4kgの減量、8時間睡眠、スマートフォンの排除。「あらゆるものが関係性なんだなと思う」と彼が語る通り、日常のささいな習慣や物理的な環境すらも、家族との健やかな関係性を維持するための土台なのだ。

彼は、コントロールできない「嵐」の中で家族と共に生きるため、自らの身体と生活習慣という「楽器」を徹底的に磨き直していたのである。

「私たち」にとっての正解を探求し続ける

自分が整うことで初めて、関係性において「こうすべきだ」という思い込みを手放すことができる。パートナーとの関わりにおいて、小笠原さんは「家事は誰がやる」「男性だから稼ぐ」といった役割を固定化しないように意識している。

「『こうだ』と決めつけるのではなく、『今、2人として大事なのは何なのか?』を常に俯瞰して考え、探求し続けるスタンスを2人で合意しています。その緩やかだけど決まっている感覚をすごく大事にしています」

好きな本を薦める、無邪気なまでの笑顔

最後に、「この本をどんな人に薦めたいか」と尋ねた。

「全人類が読めばいいと思っていますが(笑)、特に関係性に悩んだり、考えていたりする人には読んでほしいです。具体的なスキルも載っていますが、それは一例に過ぎません。自分自身の価値観をもう一度整理し、いま起きていることを俯瞰して見るきっかけになる本です」

相手を変える「やり方」をいくら重ねても、現実は思い通りにはならない。だからこそ、自分という「楽器」を丁寧に調律する。その静かな覚悟の中に、関係性を生き抜くための深い知恵がある。

>>『関係性を生きる(Relationship Matters)』書籍の詳細・ご購入はこちら

取材・インタビュー:大八木 智子
執筆・写真:三橋 新

【参考・注記】 ※「システムコーチング」は、CRR Global Japan合同会社の登録商標です。